稲島&大石のデュオはすでに「わが祖国」のディスクで高い評価を得ているが、今回もドヴォルザークの管弦楽序曲2作+後期三大交響曲という、巨大な、しかも稀な演奏にチャレンジしている(「新世界」以外は世界初録音)。もちろんピアノ連弾だと音楽の輪郭がはっきりし、ドヴォルザークの思考がどう発展していったのかが明らかになる。でもそれはこのディスクの美質の一つに過ぎない。素朴な歌心、細やかなニュアンス、力強い推進力を備えた彼らの表現に、聴き進めるにつれて編曲という意識が消えていった。大作を乱れなくまとめ、独自の世界にまで高めた点に、最も大きな意義があるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年11月号より)
【information】
CD『ドヴォルザーク:後期三大交響曲 他/稲島早織&大石真裕』
ドヴォルザーク:序曲「わが故郷」、劇的序曲「フス教徒」、交響曲第7番〜第9番「新世界より」
稲島早織 大石真裕(以上ピアノ)
コジマ録音
ALCD-7242,7243(2枚組) ¥3400+税