ウィーン・フィル(VPO)の首席チェリスト、タマーシュ・ヴァルガの「無伴奏」は意外なことにバロック・チェロを用いているが、しかしその演奏は全くバロック的ではない。そして当演奏の美質は、まさにそこにこそある。ヴァルガの母体VPOの「黄金の中庸」を地で行く言葉の最良の意味でのオーソドックスな演奏が、誠に美しいチェロの音色によって映えること映えること…。イタリア・聖クローチェ美術館の音響および録音も素晴らしく、聴き手はしばし現実世界を忘れてこの「楽園」に遊ぶことになるだろう。バッハも弾き手も超えた美の世界。
文:藤原 聡
(ぶらあぼ2019年10月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲/タマーシュ・ヴァルガ』
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番〜第6番
タマーシュ・ヴァルガ(バロック・チェロ)
カメラータ・トウキョウ
CMCD-15153〜4(2枚組) ¥3000+税