“歌うチェロ”が心に響く
チェリストの海野幹雄が2008年から続けてきたリサイタル・シリーズが今年で12回目を迎える。昨年の第11回からはイギリスの作曲家ブリテンの3曲ある「無伴奏チェロ組曲」を1曲ずつ取り上げる企画がスタートし、今年はその第2番が演奏される。
「昨年は後期ロマン派から近代までをテーマに、第1番のイメージに合わせて選曲しましたが、3作中、この第2番は『語る』要素や『歌う』要素が強い作品だと感じています。今年はそうした作風に呼応し合う作品とを合わせてみました」
メインにラフマニノフの名曲チェロ・ソナタを置き、ヒンデミットの「幻想的小品 op.8-2」、ラフマニノフの「前奏曲 op.2-1」「ヴォカリーズ」を組み込んだ。共演は妻で「最高の音楽的パートナー」、ピアノの海野春絵。
「ブリテンが表のテーマだとすると、ヒンデミットの作品8の3曲を1年ごとに取り上げるのは“隠れテーマ”とも言えます。特に今回では2曲目のヒンデミットにこんなロマンティックな作品があったのかと、びっくりされるのではないでしょうか」
そう、リサイタルには「ロマンティック・チェロ」というサブタイトルが付けられている。海野にとって「ロマンティック」とはどんなイメージなのか?
「19世紀も後半になるにつれ、和声や音楽的な表現はどんどん複雑になっていきますが、一方で音楽は個人の感情の内側に入ってくる。そういう意味で、ロマン派以降の音楽のほうが人の心を捉えやすくなるのではないでしょうか。歌詞のない音楽でも、楽器の魅力によっていくらでもイメージを膨らますことが出来る、そんな時代になっていく。そうした人間の情感に訴えかける作風を持ち続けたのがラフマニノフという作曲家だと思います。時代の変化にとらわれずに、自分のスタイルを追い求めていた珍しい存在ですね」
ブリテンの「無伴奏チェロ組曲第2番」にも聴きどころがたくさんある。
「全5曲からなる無伴奏作品ですが、特に2曲目にあたるフーガは重音が登場せず、一個一個の音の連なりで3声のフーガが表現されています。これはありそうで無かった手法で、やはり初演者であるロストロポーヴィチを意識して書かれたものかなと思います。そのあたりも念頭に置いて聴いていただくと、よりコンサートの楽しみも増すのではないでしょうか」
海野が横浜市イギリス館で続けている「Salon de violoncello」というプライべートな演奏会も100回を超えた。経験を積み重ね、より深みを増し成長していく名手の現在の姿をじっくりと堪能してほしい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2019年9月号より)
海野幹雄 チェロリサイタル ロマンティック・チェロ
2019.9/15(日)14:00 Hakuju Hall
問:新演03-6222-9513
http://www.shin-en.jp/