ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

マエストロが投げかける“謎”のプログラムが妙に刺激的


 ノットのプログラミングは、いつも知的刺激に満ちている。今回は、しじまの中からトランペットが密やかに語りかけてくるアイヴズの「答えのない質問」に、シューベルトの未完成交響曲を続ける。ご存じの通り後者は最初の2楽章しか書かれなかったが、なぜ後続楽章は作られなかったのかが、「答えのない質問」の含意だろう。

 後半はモスクワ生まれで、欧米で着実にキャリアを広げているヴァーヴァラが、ブラームスのピアノ協奏曲第1番で日本デビューを果たす。彼女はノット自身が審査員を務めた2012年ゲザ・アンダ国際コンクールの覇者で、いわばお墨付きの才能だ。

 ところでブラームスの第1協奏曲は管弦楽とピアノが、がっぷり四つにぶつかる骨太の作品で、もともと交響曲として構想されたが、途中で計画が変更された。ここで思い返されるのが、バーンスタインとグールドが行ったこの曲の伝説的名演だ。普通ならアレグロ楽章と見なす第1楽章を緩徐楽章のようなテンポで演奏したいというグールドの要望を、バーンスタインは渋々ながら受け入れたが、演奏前に「ピアニストと指揮者、どちらがボスか」と聴衆にユーモアたっぷりに問いかけたのである。

 もちろん今回、グールドのように演奏するわけではないだろうけれど、バーンスタインは「答えのない質問」も持ち曲にしていたし、ハーバード大学で行った同名の連続講義も有名だ。となれば、隠れテーマは、昨年生誕100年を迎えたバーンスタイン! 牽強付会? ノットならあり得る? うーん、答えが出ない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年9月号より)

第674回 定期演奏会
2019.10/12(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp/

第150回 名曲全集
2019.10/13(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/