世界的なピアニストとして活動を展開する辻井伸行。キャリア躍進の大きなきっかけとなったのが2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールでの優勝だ。本盤はこれまでの10年間の彼の軌跡。2枚それぞれに独奏曲と協奏曲が収められ、辻井の技術、表現力の進化の過程を追うことができる。彼の魅力は柔らかな響きの美音だが、年を追うごとに、その音色に力強さが加わっていくことが非常にわかりやすく聞こえてくる。特に協奏曲ではそれが顕著だ。チャイコフスキー(10年録音)よりも音の数は少ないはずのグリーグ(18年録音)の演奏の方が、音の厚み、迫力が増している。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年8月号より)
【information】
CD『ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール優勝10周年記念アルバム/辻井伸行』
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」より/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」より/リスト:ハンガリー狂詩曲第2番/チャイコフスキー:ピアノ協奏曲より/グリーグ:ピアノ協奏曲より 他
辻井伸行(ピアノ)
佐渡裕(指揮) BBCフィルハーモニック
ウラディーミル・アシュケナージ(指揮) ベルリン・ドイツ交響楽団 他
収録:2017年5月、ベルリン(ライヴ) 他
エイベックス・クラシックス
AVCL-25989〜90(2枚組) ¥2000+税