イルジー・ビエロフラーヴェク(指揮) チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

チェコ・フィルに新たな黄金時代来たる!!

2012年、チェコ・フィルの首席指揮者にビエロフラーヴェクが就任した。BBC響の首席指揮者をはじめ、世界の一流オケや歌劇場の演台に立ってきた巨匠と伝統の楽団。チェコ音楽界最高のコンビが遂に実現したのだ。
実はビエロフラーヴェクがこのポストに迎えられるのは今回が二度目である。チェコスロヴァキア共産党政権が倒れた、いわゆるビロード革命の翌1990年に同ポストに迎えられたのだが、革命直後の混乱の中、わずか2年でこのポストを去っている。
カレル・アンチェルやヴァーツラフ・ノイマンが20年前後の長期政権を敷き、じっくりとした音作りで自らの個性を刻印してきたのに対し、チェコ・フィルはこの後の20年間に首席指揮者を4回も変えた。資本主義化と加速するグローバリゼーションに対応するための戦略でもあったのだろうが、チェコ音楽の伝統を受け継ぐ責務を負った同団にとって、急速な変化は諸刃の剣の危険も孕む。
一方、90年当時にはまだ中堅だったビエロフラーヴェクはこの間、国際的な場で着実にキャリアを重ね、いまやチェコ音楽のみならず幅広いレパートリーを誇るマエストロとして世界的認知を得るに至った。プラハ・フィルを設立するなど国内の活動も盛んな中、首席のポストこそ退いたとはいえ、チェコ・フィルとも客演関係は続いていた。「以前はチェコ・フィルの名前が私のキャリアを後押ししてくれましたが、今は私の名前がチェコ・フィルを再認識してもらう機会を作り始めています」。
再任にあたっては、「政府が十分な助成を約束してくれました。団員の雇用条件や人事権などを抜本的に見直した上で、新体制作りやレパートリーの準備などに十分な時間をかけたのです」。楽団員の刷新も進み、若手とべテランのバランスもちょうどいい按配になっている。周到な準備は長期政権を睨んだものだろう。アンチェルやノイマンが作り上げた黄金時代の再来が期待されるが、「チェコ・フィル一筋」と語る現在のビエロフラーヴェクには、それだけの実力・名声・経験値が備わっている。前回の在任中にも両者は来日しているが(91年)、今回の公演は意味や重みが全く異なる。

イルジー・ビエロフラーヴェク

イルジー・ビエロフラーヴェク

¥さて、プログラミングを読み解いていこう。10月30日はドヴォルザーク「チェロ協奏曲」、ブラームス「交響曲第1番」。翌31日はベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」、チャイコフスキー「交響曲第6番『悲愴』」。11月3日はグリンカ「ルスランとリュドミラ」序曲、ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」、ドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』」。いずれも管弦楽の醍醐味が味わえる王道プログラムだ。チェコ音楽がドヴォルザークの2曲だけなのは少し意外だが、スラヴ系のロシア音楽がそれを補っている。また「私自身はモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスといったウィーンの音楽も極めて重要視しています」。そこには「チェコ音楽の専門楽団」ではなく、「チェコを代表する世界的楽団」たらんとする決意がみなぎっている。

各日に配された共演陣も楽しみだ。ベートーヴェンを弾くイザベル・ファウストは高い完成度を保った好演を重ね、いまやドイツのトップ・ヴァイオリニストの一角を占めている。アルメニア生まれのチェリスト、ナレク・アフナジャリャンはチャイコフスキー国際を始め、数々のコンクールを制覇。スラヴの哀愁を若い感性でどう聴かせてくれるのだろう。そして我らが河村尚子は、同団とプラハでラフマニノフをお披露目したのち東京に舞い戻る。「中堅実力派と将来有望な若手という、とてもよいコンビネーションです。私も久々に大好きな日本で新しい活動ができるのが楽しみです」。

文:江藤光紀
(ぶらあぼ2013年8月号から)

★10月30日(水)、31日(木)・サントリーホール Lコード 37469
11月3日(日・祝)・ミューザ川崎シンフォニーホール Lコード 37469
問ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp
他公演 10/27(日)・京都コンサートホール(075-711-3231)
11/2(土)・宮崎/メディキット県民文化センター(0985-28-3208) Lコード 86856
11/4(月・祝)・愛知県芸術劇場コンサートホール(052-957-3333) Lコード 48157