三浦はつみ(オルガン)

親密な空間でオルガンの神々しい響きに身も心もゆだねる

C)Takashi Arai

 横浜みなとみらいホール開館以来のホールオルガニストを務める三浦はつみが、同じ横浜の神奈川県民ホールに登場。「時を超えて─天への扉」と題してリサイタルを開く。県民ホール(小ホール)は、1974年に公立ホールとしては初めてオルガンを設置した。

「横浜みなとみらいホールのオルガンは、アメリカ製ですがフランスの後期ロマン派寄り。県民ホールのものはドイツの楽器で、個々のパイプの音がくっきり聞こえるのが特徴です。細かいニュアンスが伝わりやすい。小ホールなので客席が近い安心感もあって、近くの人にしゃべりかける感じの演奏ができたらいいなと思っています」

 教会暦の聖霊降臨祭(ペンテコステ)にちなむ作品を中心に、委嘱初演を含む桐朋学園大学出身の作曲家・坂本日菜の2曲や、スペインのF.コレア・デ・アラウホ(1584〜1654)、メシアン、フランク、そしてJ.S.バッハと、古典から現代までバラエティに富むプログラム。

「坂本さんはいつも『天に昇っていく人の背中をひと押ししてあげるような音楽を書きたい。それはオルガンでしかできない』と言っています。私も共感できる部分が多く、今回の坂本さんの作品も聖霊降臨祭にぴったりだと思います」

 聖霊降臨祭は、イエスの復活から50日後、信徒たちの上に聖霊が降ったことを祝う祝日だ(今年は6月9日)。坂本の新曲「九品来迎図Ⅳ」は、平等院鳳凰堂内部の仏教画がテーマ。そこには往生する人間を迎えるために、阿弥陀如来が楽士たちとともに降りてくる様子が描かれており、聖霊降臨と符合する。新作は、グレゴリオ聖歌の「イン・パラディスム(楽園へ)」を忍ばせているという。

「聖霊は、天上と地上を自由に行き来して人に活力を与える存在。オルガンを弾いていると、あのパイプが、その通路みたいな気がしてくることがあるんです」

 まさに「天への扉」だ。ただしバッハやメシアン含め、音楽自体は、信仰がなければ理解できないものではない。

「留学したボストンでずいぶん鍛えられました。アメリカは何事もみんなの合意で決める国。演奏も、感覚だけではダメで、他人に通じる理屈がないと認められない。でもそのおかげで、演奏にきちんと向き合えるようになりました。バッハであってもメシアンであっても、聴き手にとってわかりやすい演奏であるよう常に心がけています」

 オルガンの鳴る空間に身を任せ、そこで感じたことを自由に受け取ってほしいと語る。私たちは、彼女がしゃべりかける言葉に耳をすませばよい。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年6月号より)

三浦はつみ オルガンリサイタル 時を超えて─天への扉
2019.7/13(土)15:00 神奈川県民ホール(小)
問:チケットかながわ0570-015-415 
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/