木下牧子(作曲)

創作活動の原点―オーケストラ作品による個展を開催

©Takashi Arai
 作曲家、木下牧子の作品展が6月に開催される。1999年の第1回「歌曲の夕べ」から、毎回異なる編成でプログラムを組み、今回(第5回)は、オーケストラ作品を特集する。合唱界で絶大な人気を誇る木下だが、学生時代からオーケストラ曲を継続的に発表し、それが作曲家としての原点であると語る。

「30代までに、8曲のオーケストラ作品を発表しました。ただ、こだわりすぎて視野狭窄に陥り、しばらく意図的に離れていました。声楽曲は、苦手克服のつもりで委嘱を受けていたら、その魅力にはまりました。とりわけ2003年にオペラを書いたとき、制作の現場があまりに面白くて器楽に戻れなくなりそうな危険を感じたので、それ以降は意識的に器楽復帰を心がけ、室内楽や吹奏楽を経て、10年にオーケストラ曲に戻ってきました」

 現代音楽というと、複雑で難解な音楽との印象が強いが、木下の作品は、それぞれの楽器が響き合い、明晰な音響が特徴である。
「最近は、色々なタイプの現代音楽が並存するようになりました。私は特殊奏法や特異なシステムは敢えて用いず、オーソドックスな手法と美しい音響の中で自分ならではの世界を描くことを考えています」

 今回は、10年以降に「オーケストラ・プロジェクト」で初演された3作品と、大阪コレギウム・ムジクムの委嘱で書かれた作品を取り上げる。木下は、自身を「推敲の鬼」と語るが、その仕事は緻密だ。

「確かに新作を書く方が楽しいのですが、改訂すると驚くほど客観的に自作を見ることができます。ですので、作曲時には推敲に時間をかけ、初演後は改訂を重ね、満足のいくかたちに仕上げていきます。
 『ピアノ・コンチェルト』は、作品展に合わせて楽譜も出版(音楽之友社)されますので、第2、3楽章を中心に、『呼吸する大地』は軽めの改訂、『ルクス・エテルナ』は、時間をかけて全面改訂しました。合唱とオーケストラのための『たいようオルガン』は荒井良二さんの名作絵本がテキストで、同型反復しながら、どんどん色彩が変化するユニークな作品です。4手ピアノ連弾伴奏版は出版されていますが、オリジナルのオーケストラ版は、今回が東京初演となります」

 演奏は、大井剛史指揮の東京交響楽団、新鋭の岡田奏(ピアノ)、東京混声合唱団、と強力な布陣が揃う。
「大井さんは、新作の解釈では、若手で最も優れた指揮者のおひとりで、オペラでもお世話になりました。岡田さんは、華のある素晴らしいピアニスト。老舗の東混の出演も楽しみです」

 今後も初演の予定が続き、新たな作品の構想も温める。「室内オペラや朗読の入る音楽劇などにも魅力を感じる」と創作の翼を大きく広げる木下。彼女の現在を識るにも本個展は大注目だ。
取材・文:柴辻純子
(ぶらあぼ2019年6月号より)

木下牧子作品展5「オーケストラの時」
2019.6/19(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:新演03-6222-9513 
http://www.shin-en.jp/