わが国を代表する巨匠ふたりが揃った、今年1月の日本フィル定期が早くもCD化。シューマンのチェロ協奏曲は、今風の軽快さとは無縁の悠揚迫らぬ歩みで進み、不思議な“静けさ”すら漂う。堤の孤高の境地が示された表現を、小林がしっかりと受け止めて、余人の及ばぬ協奏の世界が創出される。チャイコフスキーの3番でも、第1楽章主部の力強い第1主題がしなやかに歌われるなど、全体に落ち着きや流麗さが際立ち、楽曲最後の祝祭まで深みを伴う。「炎のコバケン」という言葉だけでは表現し尽くせないような円熟のアプローチで、実演機会の少ない本作の真価を掬い上げる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年6月号より)
【Information】
CD『シューマン:チェロ協奏曲 他/堤剛&小林研一郎&日本フィル』
シューマン:チェロ協奏曲
チャイコフスキー:交響曲第3番「ポーランド」
堤剛(チェロ)
小林研一郎(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
収録:2019年1月、サントリーホール(ライヴ)
マイスター・ミュージック
MM-4056 ¥3000+税