佐々木 亮(ヴィオラ)

「ヴィオラスペース」は自分を成長させてくれた重要なイベントです

C)Taisuke Yoshida

 ヴィオラの魅力を広め続けてきた「ヴィオラスペース」も今年で28年目。今回は「旅」をテーマに、例年にも増してユニークな演目が並ぶ。そこで中心的存在となるのが、NHK交響楽団首席奏者の佐々木亮である。

 佐々木は東京藝術大学卒業後、ジュリアード音楽院に留学。当初はヴァイオリンを学んでいたが、「ヴィオラに触れた瞬間に『ああ、自分はこの楽器を一生やっていくんだな』と直感しました」という劇的な出会いからヴィオリストに。ニューヨークを拠点に活躍していたが、2001年の同時多発テロで「人生観が大きく変わりました。活気に満ちていたニューヨークが暗い雰囲気に覆われ、様々なことを考え直す機会になりました」と振り返る。03年に帰国し、翌年にN響入団。08年より首席を務め、ヴィオラ・セクションの顔となっている。

 彼にとって「ヴィオラスペース」は「素晴らしい奏者たちと多くの曲に出会えて、自分を成長させてくれた重要なイベント」であるという。今回は東京(2日間)と大阪の出演で、東京では両日ともメイン楽曲を担当。初日はベルリオーズ「イタリアのハロルド」からソロの出番が多い第1・第2楽章が取り上げられ、佐々木は第1楽章を弾く。

「第2楽章を弾くのは、私が最も尊敬する演奏家のひとりである今井信子先生です。先生のこの曲の録音はベストと言える素晴らしさ。滅多にない形の共演で緊張感もありますが、この上なく光栄な機会です」

 東京2日目は、佐々木が指導する桐朋学園のヴィオラ奏者たちとの共演で、ブレット・ディーン(元ベルリン・フィル ヴィオラ奏者)作曲の「テスタメント」の日本初演と、ピアソラ「ル・グラン・タンゴ」を。大阪では同じくディーンの無伴奏作品に取り組む。

「『テスタメント』はヴィオラ12人が対等にアンサンブルを作る面白い作品です。学生でも一緒に弾くとなれば“共演者”ですから、先生と生徒という感じとは違ってきますし、楽しみです。彼のソロ作品も、難しさの中にも同じヴィオラ奏者として通ずるものがあり、何かを伝えられる曲だと思います。あと、タンゴを弾きそうなイメージはあまりないかもしれませんが(笑)、実は苦手じゃありませんので、ピアソラも楽しみにしてください!」

 ヴィオラの魅力について「一人ひとりが全く違う音を持っていて多様性があり、どんな人の演奏からも得るところがあります」と語る佐々木。その誠実さは彼自身の演奏、ひいては楽器そのものの特長にもつながっている。マスタークラスも担当する彼の八面六臂の活躍を通して、ヴィオラの奥深さを体感する場となる。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年5月号より)

ヴィオラスペース 2019「ヴィオラで巡る音楽の旅」
2019.5/30(木)19:00 大阪/あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
5/31(金)19:00 仙台/宮城野区文化センターPaToNaホール
6/4(火)19:00 紀尾井ホール
6/5(水)19:00 上野学園 石橋メモリアルホール
問:テレビマンユニオン03-6418-8617 
http://www.tvumd.com/
※佐々木亮は5/31には出演しません。マスタークラスほか、各会場での演目については上記ウェブサイトでご確認ください。