東京オペラシティ B→C 黒岩航紀(ピアノ)

多様なソノリティを堪能できる一夜

©武藤 章

 東京音楽コンクールや日本音楽コンクールで優勝したのち、現在はソロやオーケストラとの共演に加え、伴奏や室内楽にも同等の力を注ぐ黒岩航紀。同世代のトッププレイヤーからのオファーが多いことからも、彼がどれほど安定感のあるピアニストとしての信頼を勝ち得ているか明らかだ。
 そんな黒岩が、東京オペラシティの名物企画「B→C」に登場。宗教や神秘性という切り口で個性的なプログラムを聴かせてくれる。前半は、J.S.バッハのパルティータ第2番にはじまり、リストがバッハ作品をもとに作曲した前奏曲や、フィンランドの巨匠ラウタヴァーラによるイコンを題材にした楽曲など、主に宗教を想起させる音楽が並ぶ。後半にはスクリャービンの「白ミサ」、メシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より「喜びの精霊のまなざし」、西村朗「神秘の鐘」…と引き続き宗教性を帯びつつも、ピアノから豊かな倍音が立ち昇ることで神秘性とエクスタシーを感じさせる音楽へと達するのだ。指先の精緻なコントロールによってピアノ1台とは思えぬ、多様なソノリティを堪能できる一夜になること間違いない。
 黒岩にとっては長年温め続けてきた選曲であるそうで、やっと実現できる機会を得られたと気合は充分。「黒岩航紀の音楽を聴きたいと思っていただけるよう、自分にしかできない楽曲のアプローチ、解釈を見つけていきたい」と述べるほど、揺るがぬ信念をもったピアニストの今後の活躍を見極めるためにも、本演奏会はぜひチェックしておきたい。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2019年5月号より)

2019.5/21(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp/