ジュネーヴに留学し、現在はソロに室内楽に活躍する有吉亮治のデビュー盤。つぶやくように力なく始まった葬送行進曲が、フレーズごとに強さを増しながらテクスチュアを膨らませるシューベルトの即興曲第1番。出だしから楽譜を深く読む思慮、それを的確に音にする技量を感じる。ショパンのソナタ第3番では構成感を捕まえて、フィナーレに向かう大きな弧を描いてみせる。ロマン派のパッションを感情の迸りよりも落ち着いた流れとしてとらえ、音の美しさを保ちつつ、硬軟を使い分けながらシークエンスの変化を彩り豊かに聴かせる。その一貫した姿勢が清々しい。等身大の、充実した音楽だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年5月号より)
【Information】
CD『シューベルト:4つの即興曲、ショパン:ピアノ・ソナタ第3番/有吉亮治』
シューベルト:4つの即興曲op.90/ショパン:ピアノ・ソナタ第3番
有吉亮治(ピアノ)
録音研究室(レック・ラボ)
NIKU-9020 ¥3000+税