室内楽版で露となるショパンの協奏曲のリリシズム
1990年にチャイコフスキー国際コンクール第3位、ショパン国際ピアノコンクール最高位に輝いたケヴィン・ケナーは、演奏家と教育者の両面で活発な活動を展開している。彼はショパン・コンクール以来2014年までの24年間、2曲の協奏曲の室内楽版の校訂を行ってきた。室内楽版はピアノとオーケストラとの共演ではなく、弦楽器5人との共演。ピアニストが表現したい繊細なニュアンスが可能になる。ショパンの時代にはこうした室内楽のスタイルで演奏することも多かった。
その第1番をワルシャワ・フィルのコンサートマスターを長年務めたツェギエルスキを筆頭に同オーケストラの精鋭メンバーで結成されたワルシャワ・ソロイスツと共演し、ピアノ六重奏版で演奏することになった。さらにユゼフ・ノヴァコフスキのピアノ五重奏曲も披露される。
ショパンのピアノ協奏曲第1番は、室内楽版で演奏されると各楽器の音が明確に聴こえ、ショパンの新たな魅力に触れる思いがする。小さな編成で演奏されていたショパン時代の姿が蘇るからである。一方、ポーランドの作曲家ノヴァコフスキ(1800〜65)のピアノ五重奏曲は、2003年にアンジェイ・ヴルベル教授によりベルリン国立図書館で完全なる楽譜が発見された。約40分の大作で、ロマンにあふれ、繊細で抒情的な楽想を備えている。ケナーの穏やかで真珠の粒のような美しいピアニズムにピッタリな作品で、芳醇な弦楽器の響きを特徴とするワルシャワ・ソロイスツとのアンサンブルが聴きどころ。
ケナーは11年からチョン・キョンファとの共演でさらに音に磨きがかかり、成熟度が増している。長年の研究の成果に期待がかかる。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年4月号より)
2019.7/15(月・祝)14:00 東京文化会館(小)
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