超絶技巧を見事に音楽表現へと昇華させていく豊かな感受性と表現力を持ち合わせた森下唯。“演奏不可能”とも評されたアルカンの作品から、これほどまでに多彩な表情を引き出し、作品の美質を示すことができるピアニストはそういないだろう。既にリリースしている3枚のディスクでそれを証明してきたが、今回の「大ソナタ」でさらに確信させてくれた。アルカンの精神世界、人生の記録が描き出され、曖昧な調性や“作為的”とも言えるテンポ設定など無数の仕掛けが施されたこの作品から、森下は作曲家の魂の声ともいうべき歌を紡ぎ出し、楽曲のあるべき姿を提示している。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年1月号より)
【information】
CD『アルカン ピアノ・コレクション4「ファウストのように」/森下唯』
アルカン:大ソナタ、3つのメヌエット、和解―小さなカプリス、サルタレッロ
森下唯(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-7225 ¥2800+税