キングレコード オーケストラ新定番名盤50

新時代のオーケストラ・タイトルのスタンダードが登場!


 オーケストラ芸術も時代とともに移り変わる。ステレオ全盛期から積み上げられた録音は膨大だが、中でもとりわけ“いま”を映した演奏をチョイスしたい――そんな渇望を癒してくれるシリーズがキングインターナショナルから発売された「オーケストラ新定番名盤50」だ。21世紀に入って相次いで設立されたオーケストラの自主制作レーベルにも目配りし、最新のトレンドを反映したセレクション。手ごろな価格(¥1,800、2枚組¥2,700/各税抜)もうれしい。各レーベルから注目盤を聴いてみた。
 まずはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が立ち上げたRCO LIVEから、ヤンソンスが指揮するR.シュトラウス「英雄の生涯」(カタログNo.17)。かけるなり、英雄のテーマが美しい残響の衣をまとって雄々しく立ち上がる。その黄金色に輝く優美なサウンドに驚いた。2004年、ヤンソンスの首席指揮者就任時の演奏だが、たぎるような情熱的演奏で知られたヤンソンスも、このあたりからスコアをたっぷりと鳴らしきる巨匠風のスタイルに変わっていった。それはコンセルトヘボウのノーブルなサウンドにもマッチしていたように思う。後年の黄金期を予感させる録音だ。
 ゲルギエフの牽引力によって快進撃を続けるマリインスキー劇場が09年に立ち上げたレーベルからは、ショスタコーヴィチ「交響曲第4・5・6番」(No.28)。12年から13年にかけての録音で、旧録音からさらに磨きがかかり、ゲルギエフの号令一下でみせるラッシュはすさまじい。前衛的な4番では一糸乱れぬ合奏力で破壊的なパワーを発散するほか、5番や6番でもここぞという場面で激しくエキサイトし、表現に彫りを与えている。また作品把握も的確。三作の作風は政治状況に影響を受けたといわれるが、そこに通底する作家性もしっかりと伝わってくる。
 自主制作レーベルの火付け役となったロンドン響のLSO Liveからは、1995年から2013年に亡くなるまで同団を率いたコリン・デイヴィスのシベリウス「交響曲全集Vol.2」(No.37)。デイヴィスは1970年代にもボストン響と全集を残しているが、この再録音では考え抜かれた運びによって深々とした呼吸が実現され、シベリウス特有の透明な空気感や北欧的崇高さをヴィヴィッドに捉えている。長年にわたりイギリス音楽界を支えた長老が最後にたどり着いた至高の境地に、おのずと居住まいが正されてしまう。
 シカゴ響によるCSO Resoundからは王者ムーティの勝負曲、ヴェルディ「レクイエム」(No.49)が入っているのがうれしい。音楽監督就任決定直後の録音だが、ムーティの筋肉質・男性的な造形美が、シカゴ響の機能性と早くも融合。とりわけ輝かしくパンチが効いたフォルテ、ツボを押さえた起伏が心を揺さぶる。絞り出すような冒頭部が印象的な合唱、マエストロの信頼も厚い独唱陣が、それぞれ強靭な歌声で盛り立て、聴くほどに荘厳さが佇立してくる。グラミー賞受賞も納得の仕上がり。
 自主制作レーベルは各楽団の特徴が出しやすい一方で、全体像を一望しにくい。これは痒いところに手が届くラインナップと言えよう。ほかにもロト&レ・シエクルのピリオド楽器による「春の祭典」をはじめ、聴いてみたい話題盤が満載。オーケストラ芸術の最前線、私たちの時代のスタンダードを共有しようではないか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年1月号より)

キングレコード オーケストラ新定番名盤50 
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