バウスフィールドの類稀なる技術と音楽性に酔う1枚。ラフマニノフのチェロ・ソナタをトロンボーンで演奏するという発想が凄いが、いかにも難しいというようにはまるで聴こえず至極当たり前に聴かせるその匠の技(第2楽章のスケルツォ!)。聴くうちに元来チェロの曲だということを忘れさせるような自然さである。併録の歌曲(ロマンス)アレンジではおよそ力みがなく膨らみに富んだ滑らかなレガートの“歌”が実に見事で、有名な〈ヴォカリーズ〉の弱音などでは“トロンボーン離れ”しているような音色の妙を披露する。稀有なアルバムであり、奏者だ。
文:藤原 聡
(ぶらあぼ2018年11月号より)
【information】
CD『ラフマニノフ:トロンボーン・ソナタ 作品19 /イアン・バウスフィールド』
ラフマニノフ:ソナタ(原曲:チェロ・ソナタ)、「6つのロマンス」より〈夜の静けさに〉、「12のロマンス」op.14より〈春の奔流〉、「12のロマンス」op.21より〈ライラック〉、〈ここはすばらしい場所〉、「14のロマンス」より〈ヴォカリーズ〉 他
イアン・バウスフィールド(トロンボーン)
ジェームズ・アレクサンダー(ピアノ)
カメラータ・トウキョウ
CMCD-28358 ¥2800+税