師弟のチェロが織りなす親密な対話
演奏活動と後進の指導の両面で日本の音楽界を築き上げてきた安田謙一郎と、NHK交響楽団の次席奏者としてだけでなくチェロ四重奏団「ラ・クァルティーナ」などでも活躍する藤村俊介。ふたりのトップ・チェリストによるデュオ・アルバム『レゾナンス〜チェロ二重奏〜』がリリースされる。師弟の関係でもあるふたりに話を聞いた。
藤村(以下 F)「中学生のときからN響に入るまでの10年間、ずっと安田先生のレッスンに通っていました。レッスンでは自分が弾いて、先生に何か言っていただくのを待つ立場でしたが、共演となるとまったく違いますね」
安田(以下 Y)「それは当然違います。生徒としてではなく、音楽家として向き合うわけですから」
このデュオによるアルバムは、2014年にリリースされた『チェロ・デュオ』に続く2作目となる。前作では18世紀と近現代の作品を収録したが、今作ではロッシーニ、F.A.クンマー、ヘンデル、モーツァルトの作品が選ばれた。
Y「2つのチェロのために書かれたオリジナル作品というのは、あまり多くないんです。今回では、クンマーによるオリジナル作品以外は、チェロとコントラバス(ロッシーニ)、2つのヴァイオリン(ヘンデル)、ファゴットとチェロ(モーツァルト)のための作品を、チェロのデュオに置き換えて演奏しました」
自身もチェリストだったクンマー以外は、いずれもオペラを得意とした作曲家たち。チェロの音色は人間の声に近いと言われるが、デュオによる演奏は、物語の登場人物がすぐそばに立って会話をしているように生き生きとした情景を思い起こさせる。
Y「ヘンデルでは通奏低音として鴨川華子さんのチェンバロと宮坂拡志さんのチェロが加わるので、デュオからいきなり編成が変わったら違和感があるかなと心配していたのですが、じつに自然な感じに仕上がっていて安心しました」
F「ロッシーニの賑やかな曲で始まって、クンマー、ヘンデルを経て、最後はモーツァルトでふたりだけの密な世界に戻るという構成にしたのも正解だったと思います」
基本的には藤村がファースト、安田がセカンドを務めるデュオだが、お互いのやり取りは「お、こう来たか!」という瞬間の連続だという。
F「とにかく型にはまらない発想をお持ちの安田先生と一緒に演奏していると、本当に得るものが多く、今後の生きる指針になります。どんな仕事でも“普通はこうやるよね”という型があるじゃないですか。その通りにやれば、スムーズにことが進む。でも先生は、それをやらないんです」
Y「そう言う藤村くんも、たくさんのアイディアがあって、常識的に弾いているばかりじゃないですよ」
豊かな響きが共鳴(レゾナンス)する、親密な対話を楽しみたい。
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2018年10月号より)
CD
『レゾナンス〜チェロ二重奏〜』
マイスター・ミュージック
MM-4041 ¥3000+税
9/25(火)発売