藤井むつ子(マリンバ/サヌカイト)

邦人マリンバ作品のエッセンスをお届けします

C)Yoshinori Kurosawa
 マリンバ奏者として、長きにわたり活躍を続けている藤井むつ子。数年ぶりとなるリサイタルでは、1350万年ほど前の太古の石であるサヌカイトの響きが現代に甦る。讃岐産の石からできた透明な響きのサヌカイトを使った楽器、そしてマリンバを軸に展開する待望のコンサートである。今回は共に打楽器奏者として世界各地で活躍中の藤井はるか、里佳との親子共演となる。
「二人の娘たちはそれぞれ個性も異なり、はるかは大きなスケール感が持ち味、里佳はどちらかといえば繊細さが特徴ではないでしょうか」
 日本人作品を集めた今回のプログラムの中で注目は、ドラマ、映画の音楽でも活躍中の岩代太郎による3人の打楽器奏者のための新作「音魂 OTODAMA」 である。
「実は岩代さんは、都立芸術高校時代に副科として打楽器を専攻していて、私の生徒だったのです。先日、久しぶりに再会した折に、彼が私のために新作を書きたいと言ってくれまして、それが今回のリサイタル開催の契機になりました。『音魂』は5楽章からなり、サヌカイト、2台のマリンバ、ヴィブラフォンのための作品です。音階を演奏できるサヌカイトを使い、マレットなども工夫をする予定です。旧知の作曲家、福田恵子さんの『鳶色(とびいろ)の視線』は改訂初演で、今回は尺八、ヴィブラフォン、マリンバで演奏しますが、気鋭の若手尺八奏者の黒田鈴尊(れいそん)さんとは初共演となります」
 三善晃作品では、組曲「会話」と「トルスⅤ」を取り上げるが、三善とは個人的にも交流が深かった。ちなみに前者はマリンバ・ソロ、後者は3台のマリンバのために書かれている。
「三善先生は寡黙な方でしたが、言葉を巧みに使って演奏者の能力を引き出すことに長けていらっしゃいました。この『会話』は様々な音の広がりを感じさせるリリカルな曲です。『トルスⅤ』は3人の奏者が最後に一箇所に集まって弾いて終わる曲なので、リサイタルのしめくくりに置きました」
 マリンバ・ソロとして内藤明美の「森の記憶」、そして石井眞木の「飛天生動Ⅲ」も演奏するが、石井作品は藤井自身が初演した思い出深い一曲だ。
「石井先生には独特の存在感があって、そのオーラ、迫力に圧倒されました。この曲について当時、飛天は女性ではなく男性だよ、と先生から言われてとても気になっていたのですが、先生自身がとても尊敬しておられたお父様の石井漠さん(舞踊家)のことを指していたのかもしれません」
 海外作曲家の作品も含めて幅広いレパートリーをもつ藤井だが、今回のリサイタルでは邦人作品の良さを伝えたいという。
「日本人だからこそ理解して伝えられる部分や個性もあると思いますので、そういったものを大事にしていきたいですね」
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2018年9月号より)

藤井むつ子 マリンバ・リサイタル
2108.10/20(土)15:00 トッパンホール
問:1002(イチマルマルニ)03-3264-0244 
http://www.1002.co.jp/