小川典子(ピアノ/浜松国際ピアノコンクール審査委員長)

世界に羽ばたくピアニストを浜松から送り出したい

C)武藤 章
 10回目の開催を迎え、世界でますますその存在感を大きくしている浜松国際ピアノコンクール。昨年、同コンクールをモデルとした恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』が直木賞を受賞。今秋は、より幅広い層からの注目を集めた開催となりそうだ。
 今回からは、小川典子が審査委員長に就任。1987年リーズ国際ピアノコンクール第3位入賞以来、現在もイギリスと日本を拠点に活動する彼女は、若者のキャリアに本当にプラスとなるコンクールを目指して準備を主導してきた。
「私が今もイギリスで活動できるのは、明らかにコンクールのおかげ。BBC関係をはじめとする多くの演奏機会をいただき、それがいまも続いている感覚があります。浜松からも、そうしてコツコツ国際的な活動を続けるピアニストを送り出したいのです」
 浜松コンクールはこれまで、若い入賞者がその後著名な大コンクールに優勝することで評価を高めてきたところがある。しかし創設から27年が経ったいま、「浜松から世界に直接ピアニストを送り込む」ことを目指す時が来たと小川は話す。
「審査委員には、即戦力になるピアニストをできるだけ公平な形で見つけだす姿勢に賛同してくださる方を、慎重に選んでお願いしました。また、私が得たネットワークを活用し、BBC響などのゼネラル・マネージャーの方を審査委員に、BISレコードの方をゲストに招くなどしています。入賞者が彼らの目にとまり、世界で活動するきっかけになればと期待しています」
 今回から、プログラム冊子には参加者の入賞歴や師事歴を記載しない。これにより、先入観なく審査を行う姿勢を示したいという。
「演奏家は一回の本番が勝負。その時の真剣な演奏を聴いて、そのまま評価することが大切です。DVD予備審査では、さらに名前や年齢、国籍まで伏せて演奏を聴いたんですよ」
 今回その予備審査を通過したのは、応募者382名中の95名だ。
「レベルが大変高いです。どこも資金難のため参加者数を減らす中、95名も出場する浜松コンクールは、審査のムラが最小となる数少ないコンクールの一つといえます。第1次予選の練習曲での若者の最先端の技術力、第2次予選の選曲の個性と日本人委嘱作品の解釈、そして音楽性が丸裸になる第3次予選のモーツァルトの室内楽など、聴きどころはたくさん。本選は、オーケストラ、指揮者を携えてどれだけ自分の音を届けられるかがポイントとなるでしょう。ネット配信もあるので、できるだけ早いステージからチェックし、彼らが乗り越えてきたものを知ったうえで聴いていただけたら」
 優勝者以外にも、コンクールを飛躍のきっかけにしてほしいと小川は語る。そのためには、聴衆が自らの審美眼を信じて演奏に向き合うことも大切だ。
「お気に入りのピアニストが地域コンサートに出演するなら聴きに行ったり、ホームコンサートを企画したり。優勝というタイトルを追うだけでなく、良いと思う若者を積極的に応援してほしいですね」
 新たな発展の可能性を広げた浜松コンクールで、どんな才能と出会えるのか。楽しみにしたい。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2018年10月号より)

第10回 浜松国際ピアノコンクール
2018.11/8(木)〜11/25(日) アクトシティ浜松
問:浜松国際ピアノコンクール事務局053-451-1148
http://www.hipic.jp/