アンドレイ・イオニーツァ(チェロ)

名作と名器が導く“音の旅”にお連れします

C)Peter C. Theis
 2015年にチャイコフスキー国際コンクールを制し、一躍スターダムを駆け上がったルーマニア出身のチェリスト、アンドレイ・イオニーツァ。2年ぶりの来日リサイタルで、メンデルスゾーンとプロコフィエフのソナタを軸に、個性的なプログラムを披露する。「新たな一面を、皆さんにお見せできれば」。鮮烈な音楽創りで、聴く者すべてを魅了する俊英は語る。
「チェロを弾いている時、私自身の中から、音楽が自然と話しかけてくる感覚に捉われます。そして、一種の流れのようなものが、体の中を駆け巡るように感じます。演奏家にとって、自らの意識に忠実であり、内なる芸術の声に耳を傾けることが、最も重要だと思います。これこそが、芸術家にとって、最も確固たるものだからです」
 今回は、メンデルスゾーンの第2番とプロコフィエフ、2つの大作ソナタを大枠に据えた。
「チェロのレパートリーでは、総じて東西ヨーロッパの対比が明確。特に、ドイツ・ロマン派と、20世紀ロシアの偉大な作曲家の手になるソナタは、その象徴と言えるでしょう。これらの作品はチェロを語る上で、欠かすことができません」
 そして、「自分が大好きな作品のひとつで、最も知的に書かれた傑作」と評する、マルティヌーの「ロッシーニの主題による変奏曲」を。さらに、「シチリアーノ」「夢のあとに」「蝶々」とフォーレの小品を組み合わせる。
「燦々と光り輝くメンデルスゾーンから、重々しく深奥なプロコフィエフの世界へ。皆さんを“音の旅”にお連れしたいのです」
 「音楽に新たな視点を与えてくれる、頼れるパートナー」というピアノの薗田奈緒子とは、2年前の来日初リサイタルでも共演している。
 愛器はドイツ音楽財団から貸与を受けた、クレモナの銘器ロジェリ(1671年製)。 「こんなに素晴らしい楽器を、弾けることに感謝しています。芳醇で深い響きを持つ、この楽器の持つ更なる魅力を探求する毎日です」
 チェロを始めたのは8歳から。
「ピアノを弾いていたのですが、先生から弦楽器を勧められました。すると、最初のレッスンから、チェロに恋してしまったのです!」
 ベルリン芸術大学で学び、14年には難関・ミュンヘン国際コンクールで第2位に。そして、その翌年のチャイコフスキー国際コンクール優勝で「新しい人生が幕を開けた」そうだ。
「新しい生活スタイルに慣れる必要がありました。旅も多いですし、どのステージでも大きな責任が伴います。しかし、それは私がずっと求めてきたこと。愚痴を言ってはいられません。また、ソリストとして成功できたとしても、バランスのとれた生活を維持できなければ、全く意味がありません。人生においても成功できた時こそ、音楽家としての成功も得られると思います」
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2018年9月号より)

アンドレイ・イオニーツァ チェロ・リサイタル
2018.9/19(水)19:00 浜離宮朝日ホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 
http://www.pacific-concert.co.jp/