ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

充実のコンビがおくる崇高にして至福なる体験

ピエタリ・インキネン

 今年6月、2016年9月〜19年8月の契約だった日本フィルの首席指揮者ピエタリ・インキネンの任期を、21年8月まで延長することが発表された。08年の初共演から10年。現在プラハ響とザールブリュッケン・カイザースラウテルンドイツ放送フィルの首席指揮者も務める多忙な彼の契約延長は、両者の相性の良さと互いの信頼度の高さを物語っており、今後のさらなる成果を大いに期待させる。
 新シーズン最初の共演となる10月定期のプログラムは、シューベルトの交響曲第5番とブルックナーの交響曲第9番。日本フィルで独墺音楽に主軸を置いているインキネンが、とりわけ実績を挙げてきたのはワーグナーとブルックナーである。彼は、1小節1フレーズを丹念に描出しながら、音楽にスケール感と深みをもたらす。この特質がブルックナーに合わぬはずがない。事実これまで当コンビは、本丸ともいえる7、8、5番の交響曲で、期待を上回る名演を残してきた。ゆったりしたインテンポで1歩1歩踏みしめながら創出される雄大な音楽…。近年稀な悠揚迫らぬブルックナーをいま最も味わわせてくれるのは、他ならぬ彼らなのだ。
 しかし、作曲者の絶筆となった第9番には、重厚さや壮大さだけでなく、浄化された美感や崇高さと、現世への別れが滲んだ切なさがある。そこが5番や8番とは違った難しさだ。その点、インキネンの一方の特質である繊細さや透明感が格別の感動を予感させる。加えて、シューベルトの第5番のチャーミングで清澄なトーンも佳き導入効果を果たすであろう。独墺ロマン派王道交響曲の幕開けと終焉を、充実コンビの渾身の演奏で堪能したい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年9月号より)

第704回東京定期演奏会
2018.10/12(金)19:00、10/13(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
http://www.japanphil.or.jp/