名匠が映し出すシューマンの光陰
都心部にあっても喧騒とは無縁のトッパンホール。室内楽ファンにこよなく愛される“音の小空間”であり、名物企画『歌曲の森』も、はや23回目という。この11月には、ドイツのテノール、クリストフ・プレガルディエンが、ピアノのミヒャエル・ゲースと組んでシューマンの夕べを開催。プレガルディエンの明度の高い声音は、この作曲家特有の“メロディの光陰”を映し出すにはうってつけのもの。今回は「5つの歌曲 op.40」の〈においすみれ〉のひときわ繊細な語り口、〈母親の夢〉でのメランコリックな美感など小曲の透徹した世界観に触れる一方で、「リーダークライス op.39」「詩人の恋 op.48」と、二つの大規模な歌曲集が楽しめるのも選曲の妙だろう。前者の〈森の対話〉で旋律線が高音域へとダイナミックに上昇する瞬間、後者の〈美しい五月には〉で歓喜と苦悩がさらっと交錯する境地など、名歌手の知的なアプローチを体感してほしい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年9月号より)
2018.11/9(金)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
http://www.toppanhall.com/