最初の主題は至極普通な印象、しかし第1変奏に入るや否や聴いたことのない新たな旋律(変奏)が右側(第2ピアノ)から耳に飛び込んできて驚く。この編曲版、原曲の声部を2台のピアノに割り振ることによってその対位法的効果が明確になり、楽曲のテクスチュアの見通しが極めて良くなっているのがすぐに感知できよう。しかしただ割り振るだけではなく先述のように新たな変奏旋律を追加したり、例えば第27変奏において原曲の2声部を2台のピアノに振り分けカノンにし、かつ各声部にオクターヴのユニゾンを加えるなどということも行っている。これもまたゴルトベルク、実に愉しい。
文:藤原 聡
(ぶらあぼ2018年7月号より)
【information】
CD『J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲[2台ピアノ版]/ゲルティンガー祥子&菅野潤』
J.S.バッハ(ラインベルガー/レーガー編):ゴルトベルク変奏曲(2台ピアノ版)
ゲルティンガー祥子(ピアノ)
菅野潤(ピアノ)
レック・ラボ(録音研究室)
NIKU-9015 ¥2800+税