広い視野をもつ“音楽創人”育成のためリベラル・アーツ教育
21世紀の音楽文化を創出する人材育成を目的とした、まったく新しい塾が6月に開校する。文化芸術プロデューサー浦久俊彦が手がける「代官山未来音楽塾」だ。
この塾が目指すのは、特定のジャンルにおける演奏家や作曲家といった、従来型の専門家の育成ではない。ここで育てられるのは、広く音楽の力と可能性を信じ、人と人、人と自然、人と世界とが共鳴するハーモニーを奏でることのできる人材であり、音楽の歓びを通じて、まちづくりや地域の活性化を図ろうとする人である。利己主義ではなく利他主義の社会を目指し、よりよい未来を創りだそうとする人々。浦久は、そうした、これからの日本に必要な音楽の担い手を“音楽創人”と呼ぶ。
いわゆる箱物行政への反省がなされて久しい。しかし今もなお、全国的に建設された公共施設を活かし、地域に根差した音楽文化をプロデュースできる人が、いったいどれだけ存在するだろうか。たとえばそうした問題解決の一歩として、代官山未来音楽塾は音楽創人を世に送り出したいと考えている。
特定の音楽ジャンルに囚われることなく、広い視野をもつ音楽創人の育成のために、浦久が志向するのはリベラル・アーツ教育だ。代官山音楽未来塾では「座学」として、音楽、建築、科学、デザイン、哲学など各界の第一線で活躍する人々の講座を開き、塾生の教養を高める。初回は塾頭の浦久自身と副塾頭で指揮者の木許裕介(6/29)、続いて東大名誉教授の小林康夫(8/10)、建築家の伊東豊雄(10/12)、哲学者の千葉雅也(11/30)、ジャズピアニストで数学者の中島さち子(2019.1/11)、作曲家の一柳慧(2019.3/29)という錚々たる顔ぶれが登壇。各回2時間のなかで、講義とディスカッションを行う予定だ。
また「実学」として、アートディレクター北川フラムを講師に迎え、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」が開かれる新潟での合宿が9月に行われる。さらにメディア、劇場、アートマネジメントの現場で活躍するプロデューサーやディレクターによる実践講座も随時開催予定だ。
塾の拠点となるのは、来年50周年を迎える代官山ヒルサイドテラス。洗練された文化の発信地を舞台に、2019年春には、塾生たちのいわば卒業制作として「代官山未来音楽祭」を企画・制作・運営する。
応募資格に年齢・学歴・経験による制限はない。プロデューサーやディレクターを目指す人、これからの人生に音楽&リベラル・アーツを活かしたい人、リタイア後は真剣に地域再生に力を注ぎたい人など、多彩な人々を歓迎している。年間受講料は40,000円(合宿は別途要参加費)。若い人に参加しやすい価格で、学生料金も別途設定されている。「1000年後の世界に、どんな音楽が鳴り響いていると思いますか?」という作文(400字程度)を添え、6月1日までに応募しよう。音楽の力で、よりよい社会を作りたいと願う人たちの、新たな交流と発信が始まる。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年6月号より)
問:クラブヒルサイド03-5489-1267
http://hillsideterrace.com/events/4318/