自然環境に目を向ける音と絵と詩のコラボレーション
絵・ポエム・ピアノ音楽が一体となって、絶滅を危惧される動植物たちの生きる姿を描いた作品が生まれた。『ゼツメツキグシュノオト』は、音楽之友社のウェブサイトで1年半にわたり連載されたシリーズ。
日々、世界のどこかで生物の種族が姿を消しているが、今この瞬間も絶滅が危惧されるラッコ、サンゴ礁、ホッキョクグマなど18種類の生き物を取り上げ、那覇在住のイラストレーター茂木淳子(「音の台所」名義で活動)が絵と言葉を、人気作曲家の春畑セロリがピアノ曲を書き下ろした。CD、楽譜、絵本となって発売される。
「絶滅危惧という人間の心配をよそに、彼ら自身は精一杯命を輝かせて生きています。その愛らしさや、たくましい姿を、茂木さんと表現するのはとてもワクワクする作業でした。波照間島でリュウキュウコノハズクたちが『コホーッ、コホーッ』と呼び交わす声の録音、そして絵とポエム。茂木さんが送ってくださる素材や作品から受けた刺激をピアノ曲にする。生き物の鳴き声そのものを音型にするというよりも、声の間合いや響き渡る森の空気感などを想像し、そこから感じたものを音楽にしています。茂木さんは生き物たちから連想したスタッカート、トリル、ラルゴといった音楽用語を詩のタイトルに付けているので、そんな“しばり”の中で創作するのも楽しかった」
CDには茂木自身による詩の朗読と、これまでにも春畑作品を演奏してきた内藤晃のピアノ演奏を収録。
「内藤さんはその音色もさることながら、ステージでピアノ小品を愛おしそうに笑顔で演奏する姿が、今回も録音をお願いする決め手となりました」
この作品には生物や自然環境を研究する科学者たちも反応を寄せた。地球規模で考え、守るべきものを多くの人に伝えるには、音楽の力に大きな可能性があると彼らは共鳴。科学の言葉だけでは伝わらない。アートだけの力では動かせない。そんな現状にこの作品は一石を投じる。
「CD、楽譜、絵本それぞれの解説文を、若い科学者が書いてくれました。曲は難しくありません。朗読とセットにしたり、理科の先生のお話とセットにするなど、いろんな形で楽しんでいただきたいですね。『生き物を守りましょう!』と悲壮感を漂わせて訴えたいわけではありません。ただ、生物に思いを馳せることは隣人への思いやりや、日々の暮らしを見つめるきっかけになるかもしれませんよね」
CDを聴き、本や楽譜を開いたあと、私たちは生き物に対して何を感じ、そして明日からの暮らし・生き方にどう向き合うのか。愛らしい音楽に、まずは耳を傾けてほしい。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年5月号より)
『ゼツメツキグシュノオト』
【CD】日本アコースティックレコーズ NARP-8014 ¥1500+税
【ピアノ曲集】音楽之友社 ¥1400+税
【絵本】らんか社 ¥1800+税
※絵本のみ5/7(月)発売予定