イラン・ヴォルコフ(指揮) 読売日本交響楽団

米ソの“時代の不安”を描くディープなプログラム

 読響の5月定期にはイスラエル出身のイラン・ヴォルコフが登場する。史上最年少でBBCスコティッシュ響の首席指揮者を務めた後、アイスランド響の音楽監督などを歴任した鬼才だが、すでに東京のオーケストラにもたびたび呼ばれ、現代音楽をはじめとするプログラムで明晰なサウンドを築いている。今回はプログラムもひねりがきいていて面白そうだ。
 まず注目したいのは生誕100年を迎えるバーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」。第二次大戦下のニューヨークに暮らす4人の男女を描いたオーデンの長編詩をテーマに、バーンスタインは2部6楽章のシンフォニーを作曲した。重厚なテクスチュアに加え、独奏ピアノが導き役として楽曲をリードしていくのも魅力だが、今回は独奏に河村尚子が起用されているのも注目点だ。ロマン派を多く手がけてきた印象のある河村だが、オーケストラとの駆け引きに加え、多彩なヴァリエーション、ジャズや軽音楽風の軽やかさなど、この曲の多彩な聴かせどころでどんな境地を見せるだろう。
 最初に演奏されるプロコフィエフ「アメリカ序曲」は1926年に作曲された珍曲だが、カラッとした楽想で分かりやすい。1937年に発表されたショスタコーヴィチの交響曲第5番は、4楽章の古典的な楽曲構成、暗闇から歓喜へというドラマ性が人気だが、ソヴィエト共産党による前衛批判への回答として発表されたことでも知られている。第二次世界大戦をはさんで、やがて冷戦へと発展していくアメリカとソ連。二大大国の“時代の不安”を象徴的に描き出すプログラムといえるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年4月号より)

第578回 定期演奏会
2018.5/30(水)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
http://yomikyo.or.jp/