アレクサンドラ・スム(ヴァイオリン)

社会貢献活動にも積極的な才媛による5年ぶりのリサイタル


 パリを拠点に国際的に活躍しているヴァイオリニストのアレクサンドラ・スムが、久々に日本でリサイタルをひらく。祖父も父もヴァイオリニストというモスクワの音楽一家の生まれ。アレクサンドラが2歳のとき、父が所属していたユーリ・バシュメットの室内オーケストラが南フランスに移ったため、家族で南フランスに移り住んだ。その後、ウィーンでボリス・クシュニールに師事。6年前からパリに暮らしている。彼女は15歳から12年間、スイスの小澤征爾国際アカデミーにも参加した。
「小澤征爾さんからは、決して偉ぶることのないオープンな人間性など、あらゆる意味で大きな影響を受けました。また、アカデミーではそれぞれの作曲家には独自の“言葉”があることを学べたことが大きかったです」
 日本のオーケストラと共演するだけでなく(今年1月も小林研一郎&日本フィルと共演し、シベリウスの協奏曲を演奏)、小澤征爾音楽塾オーケストラに参加したりと、たびたび日本を訪れている。好きな日本人作家は井上靖だという。そんな彼女が、5月30日にフィリアホールで、翌日には浜離宮朝日ホールでリサイタルを行う。それぞれとてもバラエティに富んだプログラムである。共演ピアニストはジュリアン・クエンティン。
「好きな作品を、様々な時代から選びました。よく演奏する曲ではラヴェルの『ツィガーヌ』やバルトークの『ルーマニア民族舞曲』があり、珍しい曲ではイザイの『悲劇的な詩』やストラヴィンスキー(作曲者&ドゥシュキン編曲)の『ディヴェルティメント』があります。シマノフスキの『神話』は私にとっての初めてのレパートリーです。モーツァルトの『ヴァイオリン・ソナタ第29番 K.305』は明るく楽しく、シューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番は葛藤に満ちています。ストラヴィンスキーは、5つの楽章がそれぞれにストーリーをもつオペラのようで、ユーモアに富み、面白い作品です。シマノフスキはそれとは正反対でミステリアスで、音楽に身を任せないと、自分のものにするのが難しい作品です。それぞれが違う世界なので、難しく考えすぎず、それぞれの雰囲気を楽しんでいただきたいです」
 スムは、早くから社会貢献活動に取り組んできた。
「フランスのオーケストラと貧困地区をまわり、その地区に住む子どもたちのためにコンサートをしたことがありました。彼らはクラシック音楽を聴いたことがなかったのですが、1時間後には、『音楽家になりたい』と言ってくれたのです。これが契機になり、いろいろな活動に参加するようになりました。学校や病院、そしてホームレスの宿泊施設などに出向いて演奏しましたが、音楽を知らない人のハートを動かすことは、自分にとっても得るものが多かったのです。そんなことを思うのは私だけかと思ったら、同じ思いを持つアーティストが他にもたくさんいることがわかりました」
 そして彼女は、パリでNPO法人「エスペランツ・アーツ」を立ち上げた。
「これまでに70人以上のアーティストが協賛し、参加してくれました。彼らには普通のコンサートではできない、自分のやりたいことを自由にやってもらっています。今シーズンも35公演、バロック、現代音楽、ジャズ、ダンス、詩の朗読、伝統音楽、民族音楽などなど、ありとあらゆる作品を組み合わせた公演を企画しました。私もヴィブラフォンとのデュオをやります。子供たちは案外、リゲティやクルタークのような現代音楽にも興味をもってくれます。“クラシック音楽は裕福な人たちが聴くもの”という考えは間違っています。音楽を知らない人でも理解できるのです」
 彼女は、エル・システマ・フランスでも大きな役割を担っている。今年はケニアに出かけ、エル・システマに似たプロジェクトで音楽教師たちを指導するとのことだ。
「今は、オーケストラとの共演、リサイタル、チャリティ、社会貢献など、良いバランスで活動できていると思います。私は好奇心の塊で、自分で詩を書いたりしますし、バロックや現代音楽などの新しいレパートリーも増やしていきたいと思っています」
取材・文:山田治生 写真:中村風詩人
(ぶらあぼ2018年4月号より)

【Profile】
近年活躍目覚ましいヴァイオリニストの一人。これまでにオーケストラはパリ管、ロンドン・フィル、イスラエル・フィル、ベルリン・ドイツ響、ロサンゼルス・フィル等、指揮者はヘルベルト・ブロムシュテット、ネーメ・ヤルヴィ、トゥガン・ソヒエフ、レナード・スラットキン等と共演。スイス・小澤征爾国際アカデミーに長年参加し、小澤征爾より厚い信頼を得る。Clavesレーベルより2枚のCDをリリース。モスクワ生まれ、ウィーンでボリス・クシュニールに師事。2004年若手音楽家のためのユーロヴィジョン・コンクール第1位。現在はパリを拠点にし、国際的な活躍を展開させている。

【Information】
アレクサンドラ・スム ヴァイオリン・リサイタル
2018.5/30(水)19:00 フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)
2018.5/31(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
※公演によりプログラムが異なります。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.pacific-concert.co.jp/