巨匠ピアニストが紡ぐフレンチの名品
新緑の輝く5月、ペーター・レーゼルが2年ぶりに紀尾井ホールでのリサイタルを行う。今回のテーマはなんと「パリのおもむき」。ドイツの巨匠レーゼルがパリ? フランスもの?! そう驚かれる音楽ファンは少なくないだろう。これまで、4年にわたるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏や、ドイツ・ロマン派の諸相を伝える3年がかりのコンサート、またモーツァルトとバッハをじっくりと聴かせた一昨年のリサイタルなど、自身の音楽的伝統を辿るようなドイツもののプロジェクトでその真価を示し続けてきたレーゼル。そんな彼が掲げる〈パリのおもむき〉とは、いったいどんな趣きなのだろう。芳しく新しい風を吹かせてくれそうで、大いに期待が膨らむ。
冒頭はモーツァルトからスタート。モーツァルトはヨーロッパ中を旅したが、パリ滞在中に書かれたソナタ(K.310 悲痛な雰囲気を湛えるイ短調の作品)ではなく、少しあとにリンツで書かれた、趣深い流麗な変ロ長調 K.333のソナタを選曲している点が興味深い。そしていよいよフランスの作曲家、ドビュッシーとフランクの作品を取り上げる。一曲一曲、緻密に情景を描いたドビュッシーの「版画」と「子供の領分」、J.S.バッハを手本にしながら循環形式を用いて構築したフランク晩年の大曲「前奏曲、コラールとフーガ ロ短調」だ。繊細なタッチと立体感に富む構成力で紡ぎ出すレーゼルの「パリ」、お聴き逃しなく!
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2018年3月号より)
2018.5/8(火)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp/