シューベルト「冬の旅」 高橋悠治(ピアノ) 波多野睦美(メゾソプラノ)

固定観念を覆す鮮烈な「冬の旅」

 作曲とピアノ演奏を通じて、常に先鋭的なサウンドを構築する高橋悠治。そして、透明感と豊潤さを併せ持つ美声で、古楽から現代の作品までを歌いこなすメゾソプラノの波多野睦美。2人の名手が、シューベルト「冬の旅」のアルバムを発表した。傑作歌曲集の固定観念を覆す、鮮烈な音と言葉の世界。そんな旅を共にできる記念のステージが、冬の東京で開かれる。
 「なぜ『冬の旅』を? と聞かれても、答えは『冬の旅だから』でしかない」と波多野は言う。その表現は変幻自在。言葉ごとの意味合いを丁寧に掬い取り、ヴィブラート表現ひとつも、フレーズとの関係性が熟考されている。さらに、澄み切った母音の表現や、「mit」「muss」など、特に「m」の包み込むような発音に、はっとさせられる。
 かたや、高橋のピアノも、共に歌い、常に言葉を語り、単なる“伴奏”の域を超越。たとえ同じフレーズであっても、決して同じ表現が繰り返されるような箇所はない。楽想からざっくり感覚的にではなく、一つひとつの音符の表現を精査するから、スコア全体を組み上げてゆくような鋭い視点は、まさしく卓越した作曲家のそれだ。
 「シューベルトは、この曲を初めて友人たちの前で弾き歌いをした時に言った。『僕はこれら全てが好きだ。君たちもきっと好きになる』。つぶやきは本当になった。無数の音楽家が『君たち』の1人となり、今日も世界中のどこかで、それぞれの旅を歩んでいる」と波多野。この言葉は、きっと、聴き手にもあてはまるだろう。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2017年12月号より)

2018.1/8(月・祝)14:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:ダウランドアンドカンパニイ042-390-6430
http://www.dowland.jp/

CD『冬の旅 高橋悠治+波多野睦美』
ソネット MHS-005
¥2800+税