詩情豊かな響きと感性を存分に堪能
一度その音色に触れると長く余韻に包まれ、いつまでもその空気を身に纏っていられる。そんな音色を聴かせてくれるピアニストに出会うことは幸福だ。20年前日本の聴衆は、初めてエフゲニー・ザラフィアンツの生演奏に出会った。以来彼は来日を重ね、日本の若きピアノ奏者たちの指導にも当たるなど、日本との信頼関係を築いてきたが、この秋「来日20周年記念公演」と銘打って、詩情豊かな響きを存分に堪能できるプログラムを披露する。
前半の2作品は、これまでにザラフィアンツがアルバムを通じて聴衆に届けてきた作品でもある。J.S.バッハの「シャコンヌ」は、もともと無伴奏ヴァイオリンのために書かれたものであるが、ブゾーニによるピアノ版は編曲作品の最高傑作だ。ザラフィアンツの深いタッチと繊細な音楽づくりが、この曲の放つ人間的な苦悩や聖なる境地、神秘的な深遠さを説得力をもって現前化させることだろう。シューマンの「フモレスケ」は人間の喜怒哀楽といった情緒を、詩的かつ知的に落とし込んだ曲集。ザラフィアンツは多層的・立体的な響きで心模様を聴かせてくれるに違いない。そして後半はショパンの「24の前奏曲 op.28」。ショパンが全調を網羅して24の小品により描いた世界を、ロシアの伝統的奏法を継承するザラフィアンツが大胆に彩り豊かに聴かせてくれるはずだ。
いつも人の心に寄り添うような音色を届けてくれるザラフィアンツ。日本におけるメモリアルイヤーを会場で祝福したい。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2017年10月号より)
2017.11/23(木・祝)14:00 東京文化会館(小)
問:ミューズ会042-366-6452
http://www.zarafiants.com/