幸田浩子(ソプラノ)

“歌姫”の魅力が詰まった名曲ぞろいのベスト・アルバム登場

 日本を代表するソプラノのひとり、幸田浩子が初のベスト盤を発売。自らセレクトした15曲はこれまでリリースしてきた7枚のアルバムの歩みであり、リリック・ソプラノの醍醐味が味わえる名曲集でもある。
「どのレコーディングにも物語があり、みんな大切な想い出。当時の自分が抱いていた感情や考えまでも記録されている気がします。各アルバムの代表曲を集めたというよりは、それぞれの扉を開ける入り口になって欲しいとの想いを込めて選曲しました」
 バラエティに富む内容の今回のベスト・コレクション、幕開けは3枚目のアルバムを彩った華やかなオペラ・アリアの2曲。
「〈私は夢に生きたい〉のような技巧を凝らした曲では、アクロバティックな声の魅力だけでなく、その場面を包む歓びの光やヒロインの高揚感といったドラマを感じとって、楽しんでいただけたら嬉しい」
 続く2曲もオーケストラとの共演曲で、記念すべきデビュー・アルバムから。
「若きマエストロ、ヤクブ・フルシャさんの指揮とプラハ・フィルハーモニアの演奏で大好きなモーツァルトのアリアを録音、それがデビュー・アルバムで実現したなんて今でも夢のようです。そこで経験した作業の全て、スタッフとの信頼関係などが土台となってその後もずっと生きている。もちろんモーツァルトとも今も共に歩き続けています」
 ラフマニノフの〈ヴォカリーズ〉やフランクの〈天使の糧〉、マスカーニの〈アヴェ・マリア〉など、ピースフルな祈りが伝わる歌唱を堪能した後は、名門ウィーン・フォルクスオーパーと専属契約を交わして活躍した、想い出の街の空気を運ぶ2曲。
「作品を知り尽くしているフォルクスオーパーのメンバーの方たちに胸を借りるようにして歌ったオペレッタ、そして〈ウィーン、わが夢の街〉を聴くたびに、懐かしさと愛おしさで切なくなります」

様々な“歌”に込められた想い

 寺嶋陸也のピアノ1本で紡いだ6作目からはNHK復興支援ソング〈花は咲く〉と共に近年演奏会でよく耳にする川口耕平作曲の〈よかった〉をセレクト。
「演奏会で素晴らしい時間を重ねた寺嶋さんと、山梨ののどかな風景の中に佇むホールで満を持して録音した初めての日本歌曲集は、どれも名曲ぞろいなのですが、歌詞の持つ世界観にも共感していただきたくて、今の時代が感じられるこの曲を」
 亡き母親への思慕に重ねて世界の愛唱歌を綴った7作目からの〈ユー・レイズ・ミー・アップ〉も必聴だ。
「アレンジとピアノ演奏を担当してくれた親しい友人でもある加藤昌則さんを筆頭に、ヴァイオリンの西江辰郎さんなど現在もステージでご一緒している共演者の方々との絆であったり、歌そのものから貰った勇気であったり、いろんなものを“YOU”というフレーズに込めて、私を“引き上げ”、前に進ませてくれたことに感謝する気持ちを込めて歌いました」
 本盤の発売以降も様々な公演が目白押し。特に7月(東京)と10月(愛知)に、当たり役のゾフィーで出演する、グラインドボーン音楽祭と国内6団体の提携公演《ばらの騎士》が待ち遠しい。
「東京二期会の50周年記念公演で初めて歌わせていただいてから14年、この作品のテーマでもある“時の移ろい”を感じないでもありませんが(笑)、若い娘であるゾフィー役にも歌手として経験を積んだ今だからこそできる表現があり、それこそがオペラ芸術の奥深さなのだと信じて精進します。ぜひご来場ください」
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ 2017年6月号から)

グラインドボーン音楽祭との提携公演
愛知県芸術劇場・東京文化会館・iichiko総合文化センター・東京二期会・
読売日本交響楽団・名古屋フィルハーモニー交響楽団 共同制作
R.シュトラウス:《ばらの騎士》
7/26(水)、7/27(木)、7/29(土)、7/30(日) 東京文化会館
10/28(土)、10/29(日) 愛知県芸術劇場
11/5(日) iichiko総合文化センター
※幸田浩子の出演は7/26、7/29、10/28のみ。
※詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.nikikai.net/

CD
『幸田浩子 マイ・ベスト・セレクション』
日本コロムビア 
COCQ-85361
¥2500+税
5/24(水)発売