田中正也(ピアノ)

ロシアのピアノ音楽の多彩な魅力を聴いてください

 田中正也は、15歳でモスクワに単身移住し、チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院で学び、多くの国際コンクールで優勝、入賞するなど、国際的なキャリアを積んできたピアニスト。近年では佐藤卓史とのピアノデュオも好評な彼だが、活動の核となるのはやはり“ロシアもの”の演奏を通しての普及活動だ。このたびナミ・レコードより、そんな彼のキャリアを集約したかのようなディスク、『リラの花』がリリースされる。
「モスクワでの生活が15年目を迎えた節目の年である2010年に、セカンド・アルバムとして自主制作したアルバムをリマスタリングして再発売させていただくことになったものです。作った当時はエンジニアの手配などをすべて自分で行ったこともあり、とても思い入れがありますし、選曲も当時の自分の最高の部分が出せる作品を選んでいます」
 チャイコフスキー(プレトニョフ編)の「くるみ割り人形」を中心に、プロコフィエフの初期作品である「10の小品」、ラフマニノフやチャイコフスキー、リャードフの小品が収録された、ロシア音楽の魅力が多面的に楽しめる内容だ。
「アルバム・タイトルの『リラの花』は、大好きな曲でもあるラフマニノフの作品からとりましたが、もともと“人々に幸せを運ぶ”とされている花なので、ぜひ聴いていただく方に幸せな気持ちになってほしいという想いも込めています。ロシアのピアノ作品というと、音も多く、超絶技巧が駆使された“重い”作品のイメージが日本では特に強いのですが、こういう繊細な表現の作品もたくさんあるんだということを知っていただきたいですね」
 ロシア作曲家の多面性を伝えるという意味では、今年の12月に最終回を迎える『プロコフィエフピアノ曲全曲演奏会』への取り組みは彼の活動の中でも非常に大きな位置を占めている。
「プロコフィエフは不協和音や強烈なリズムの多用によって好き嫌いが分かれる作曲家ですが、彼自身は自分の作品に対して“抒情性がある”と述べていますし、実際、今回のアルバムに収録した『10の小品』などは本当に抒情的で繊細な作品です。特に第7曲の『前奏曲 〈ハープ〉』はリサイタルのアンコールで良く弾くのですが、お客様からも“こんなに素敵な曲があるんですね”と言われるんですよ」
 さらに美しい音となって蘇ったアルバム『リラの花』は、「聴いて下さる方へのプレゼント」という意味も込めているという。田中の根幹を成すと言っても過言ではないロシアのピアノ作品への愛、そして作品の魅力が最大限に伝わってくるはずだ。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ 2017年3月号から)

プロコフィエフピアノ曲全曲演奏会 第8回(最終回)
12/7(木) 19:00 カワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」
問:カワイ音楽振興会03-5485-8511

【CD】
『「リラの花」/田中正也』
ナミ・レコード
WWCC-7830
¥2500+税
3/25(土)発売