ダニエル・ハーディング (指揮)

期待が膨らむ名門パリ管との新コンビ

©Frederic Desaphi
©Frederic Desaphi
 人気指揮者ダニエル・ハーディングは、今秋から名門パリ管弦楽団の音楽監督に就任し、11月に早くも日本ツアーを行う。「パリ管を最初に指揮したのは20年以上前」で、昨年それ以来、久々に客演。その1度の成功で就任を要請されたという。
「最初は戸惑いましたが、全体も楽員個々も非常にレベルが高い点はもちろん、昨年完成した新ホールでの新たな取り組みを希求する楽団の志に共鳴し、ポストをお受けしました」
 彼自身の期待も大きい。
「パリ管は、国際色の豊かさが特徴。国の枠組みに囚われず、作品や作曲家に合わせて音を作れます。特にフランスの作曲家でもドビュッシーとベルリオーズで違う色を出せるのが素晴らしい。これからは、楽団の創造性をさらに膨らませながら、通常とは異なる新ホールの空間をうまく活用することや、そこを本拠とする別団体、例えばアンサンブル・アンテルコンタンポランとのコラボ等も考えています」
 今回の日本ツアーは、フランスのベルリオーズとドビュッシー、ハーディングの母国イギリスのブリテンに、両者十八番のマーラー、ジョシュア・ベルがソロを弾くブラームス、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を加えた多彩なプログラムだ。
「コンビを組んで間もなくの日本ツアーには、強いプレッシャーがかかります。その中で、パリ管の伝統的な演目もスタンダード名曲もドイツものも含む、バラエティに富んだ演目を披露するのは、オーケストラにとっても良い経験になります。それにこれは今のパリ管を象徴するプログラムであり、今後に向けた所信表明のようなもの。素晴らしい音楽ばかりですから、1公演だけでなく、複数のプログラムを聴いていただきたいと思っています」
 フランスものはひと捻りした演目。
「今回はベルリオーズとドビュッシーの、『幻想交響曲』『海』ではない作品をあえて選びました。前者の『ロメオとジュリエット』は、ロマンに溢れ、音の色彩が鮮やかでファンタジーのある作品。私自身が最初から恋に落ちたように、初めて聴かれる方でも虜になる音楽です。後者の『ペレアスとメリザンド』も本当は全曲を演奏したい位ですが、抜粋でも独特のサウンドの魅力を味わっていただけるでしょう」
 マーラーは、大震災時の新日本フィルとの演奏で感動を残した交響曲第5番。
「私にとっては、日本という国や聴衆と親密な関係をもった、特別な思いのある作品。前に聴かれた方も、今度はパリ管でどうなるのか? という点に注目して欲しいですね」
 彼いわく、同曲の意味は「暗から明へ」だけではない。
「最初はユダヤ教徒の音楽で、そこからキリスト教のコラールなどの明るい音楽に変わっていく。これはマーラー自身が宗教を変えたことをなぞっています。また終楽章の最後は、喜びに溢れた終結ではなく、全てが崩れて無になっていくと捉えることもできます。さらに、この曲とメンデルスゾーンの協奏曲は、改宗したユダヤ教徒を対照する興味深い組み合わせです」
 ちなみにジョシュア・ベルは「20年来の友人」との由。むろん彼のソロも聴きものだ。
 パリは「子供たちが15年間暮らす」因縁浅からぬ町。その顔であるオケとのコンビ初来日公演を、大いに期待したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2016年10月号から)

ダニエル・ハーディング(指揮) パリ管弦楽団
11/18(金)19:00 NHKホール 
11/20(日)15:00 京都コンサートホール 
11/22(火)19:00 ザ・シンフォニーホール
11/23(水・祝)15:00 アルモニーサンク 北九州ソレイユホール
11/24(木)、11/25(金)各日19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
※プログラムや問い合わせ先などの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。 
http://www.kajimotomusic.com