西村 朗(作曲)

野平一郎さんとの共作・委嘱はスリリングな体験ですね

©東京オペラシティ 撮影:大窪道治

©東京オペラシティ 撮影:大窪道治

 1981年から毎年、優れた日本人作曲家の紹介を行ってきたサントリー芸術財団主催の『作曲家の個展』。今年からリニューアルし、新シリーズがスタートする。『作曲家の個展Ⅱ』と題し、毎回2人の作曲家が演奏会の構成・企画を担当するスタイルを採用するという。記念すべき初回は、西村朗と野平一郎が登場する。
「野平さんは、同じ東京芸大出身で1年先輩ですが、作風も作曲家としての活動の軌跡もずいぶん異なります。せっかくタイプの違う私たちが組むのだから、今までに無いような挑戦的な企画にしようということで、お互いに委嘱し合った新作2曲、さらに共作を1曲発表することにしました。今後も作曲家二人の組み合わせの形が続く予定ですが、どんなペアになるかで、演奏会の内容は毎回かなり変わってくると思います」
 音楽史上、ほとんど類をみないであろう今回の共作は、ピアノ協奏曲「クロッシングA・I」。
「第1楽章は、ソロの部分が私、オーケストラの部分が野平さん、第3楽章はそれが逆になります。第2楽章は、5〜6分程度のソロのみの曲です。お互いに6つの断片を作曲し、それをソリスト(野平さん)が任意に並べて構成します。各自が個性をはっきり打ち出した音楽を書き、それがクロスするというのがタイトルの由来です。アルファベットは、それぞれの名前、朗(AKIRA)と一郎(ICHIRO)の頭文字からとりました」
 両者から信頼を寄せられている杉山洋一が東京都交響楽団を指揮し、ソロは野平が担当する。
「野平さんには自作を何度も演奏していただきましたが、作曲家としての高い知性と教養を備えたその演奏表現は、いつも作品に新鮮な命と飛躍を与えてくださいました。作曲者の想像以上に、作品を成長させ、輝かせてくれると言ってもいいですね」
 野平が委嘱した西村作品は「液状管弦楽のための協奏曲」。
「これまでの私のヘテロフォニー語法が基調になった曲で、2管と3管の間くらいの編成です。金属打楽器群が水質の羊水世界のような背景を作ります。液状というタイトルは管弦楽を液状の原初の海的世界や羊水世界としてイメージしているということで、そこに出現する音響や旋律群は液中に生まれる生物体のようなものというわけです」
 なお、西村から野平への委嘱作は「時の歪み」だ。
 今回のユニークな企画は西村の創作にとっても、ひとつの節目になったという。
「これまでにない斬新な体験ができましたね。野平さんとの共作の譜面を通じて自分の創作や音楽観が鏡のように写ってきたような思いがしました。まさに自身を映す鏡でした。新しい試みなので私自身も非常にスリリングでしたが、みなさんにもぜひこうした実験に対する批評精神をもって聴いていただきたいと思います」
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ 2016年10月号から)

サントリー芸術財団コンサート 作曲家の個展Ⅱ 西村 朗 × 野平一郎
10/28(金)19:00 サントリーホール
問:東京コンサーツ03-3200-9755
http://www.tokyo-concerts.co.jp