80歳の巨匠による精緻な20世紀“協奏曲”プロ
インバルが常任だった時代に都響の音はぐんと重く、厳しくなった。現在の隆盛を導いた忘れがたいマエストロも80歳。さらに今年は両者の初共演から四半世紀にもあたるそうだ。現在、桂冠指揮者のポストにある名匠が指揮する9月定期は、両者の名演に胸を熱くしてきたファンならずとも聴き逃せない。
9月15日の定期Aシリーズは膨大なレパートリーを誇るインバルの精緻な読みがとりわけ映える近現代プログラム。前半はロシアもので、グリンカ《ルスランとリュドミラ》序曲に続いて、プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第2番」。第一次大戦勃発前夜に書かれたが、まだ20代前半だった作曲家の筆致はモダニズムの極北を走り、グロテスクなバーバリズム、巨大でメカニックな技巧性、ひんやりとした抒情など、後年のプロコフィエフの創作を特徴づける要素が余すところなく表れている。ソロのアンナ・ヴィニツカヤは2007年のエリーザベト王妃国際の覇者だが、その時に彼女が選んだのがこの曲。第3番に隠れて今一つ影の薄い難曲の、鮮やかな“捌きっぷり”は評判を呼んだ。今回もお得意のレパートリーで真価を問う。
後半はバルトーク「管弦楽のための協奏曲」。最晩年の傑作で、5楽章構成の大管弦楽のところどころに各楽器のソリスティックな妙技が挟まれる。中央にバルトーク特有の夜想的楽章を置き、ダイナミックなうえに知的な仕掛けも随所に組み込まれた作品で、マーラー指揮者としてのインバルの腕がとりわけ冴えそうだ。統率のきいたリードのもと、都響の名手たちが競う妙技にも期待したい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年8月号から)
第814回 定期演奏会 Aシリーズ 9/15(木)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp