皆さんに21世紀の音楽シーンを体験してほしいですね
作曲家であり、近年は指揮者としても注目を集めている久石譲。2016年における久石のトピックの一つは、芸術監督に就任した「長野市芸術館」が5月にオープンすることだろう。すでに発表されている初年度のプログラムには作曲家として、また指揮者として、多くの公演やイベントに登場する。
「音楽や芸術を日常化し、そうしたものを楽しむ人や心を育てていきたいですね。その精神を象徴する長野市芸術館のモットーともいうべき『アートメント』という造語には『アートとエンターテインメント』ではなく、『アートをエンターテインメントとして楽しむ』という意味が込められています。コンサートでもベートーヴェンのようなクラシックとアルヴォ・ペルトのような現代の作品を並べ、21世紀の今を体験していただきたいですし、自分もまた一人の作曲家として同じ時代の音楽をもっと知って欲しい、楽しんで欲しいという気持ちが強いのです」
ベートーヴェンと現代音楽を指揮
長野市芸術館での活動として大きなものに、在京オーケストラの首席奏者クラスが集まるという「ナガノ・チェンバー・オーケストラ」の結成がある。自ら、指揮者としてベートーヴェンの交響曲全9曲を3年間で演奏し、そこでは自作を含む現代の作品も取り上げる。
「ベートーヴェンの交響曲は王道ですが、単に欧米を追従するのではなく、伝統を背負っていないからこそできる現代の演奏を僕は追究していくつもりです。その一方で、演奏家もお客様も未知の作曲家や作品にチャレンジしていただきたい」
そうした長野での精神は、東京の活動であっても一貫している。コンサート用の作品は(久石が手がけた多くの映画音楽とはまったく違う)ミニマル・ミュージックを軸にした作風であり、これから発表される作品もそこにブレはないという。
「作曲家としての自分の本籍は学生時代からミニマルにありますし、現在は僕よりも若い世代の作曲家たちがポスト・ミニマル、ポスト・クラシカルと呼ばれて活動しています。ブライス・デスナーやニコ・ミューリー(ニコ・マーリーと表記される場合もあり)といった作曲家はミニマルの語法を当たり前のように消化・活用していますけれど、日本ではそうした音楽がまだまだ育っていないように思えます。そうした風潮を覆し、同じ時代に生まれた音楽を新鮮な気持ちで楽しんで欲しいので、積極的に紹介していきたいですね」
刺激的な「ミュージック・フューチャー」
2014年から久石自らのプロデュースにより東京で開催している『ミュージック・フューチャー』というコンサートのシリーズは、そうした精神の象徴で、長野での活動ともリンクするものだ。前記のような注目の作曲家を紹介してきたが、3回目となる2016年も、自作の「室内交響曲第2番」、ヴィヴァルディの「四季」を再構築して話題を呼んだマックス・リヒターや、映画『グランド・フィナーレ』の音楽を担当し、ヒラリー・ハーンらにも新作を書き下ろすデヴィッド・ラングなどを取り上げる。
「さらに、ミューリーやジョン・アダムズたちによる室内オーケストラ作品のルーツを再検証するため、シェーンベルクの『室内交響曲第1番』を演奏します。そうした時代の流れを知ることも、最先端の音楽を理解するカギになりますので」
新しい音楽を求めている聴き手は、久石譲の活動を注視すれば思わぬ視界が広がる可能性大なのだ。
取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)
長野市芸術館オープニング・シリーズ
自主事業ラインナップ(主催ならびに共催公演)の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.nagano-arts.or.jp
ミュージック・フューチャー Vol.3
10/13(木)、10/14(金)各日19:00 よみうり大手町ホール
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337 6/4(土)発売