ローター・ツァグロゼク(指揮) 読売日本交響楽団

10年ぶりの来日で名匠が聴かせるドイツ・プロ

ローター・ツァグロゼク ©Christian Nielinger
ローター・ツァグロゼク ©Christian Nielinger
 派手さはないが着実な仕事ぶりで安定した評価があり、気が付くと巨匠にふさわしい貫録を身に着けているアーティストがいる。70代半ばに入ってきたローター・ツァグロゼクは、これからそんなふうに評価される指揮者ではないか。若くしてパリ・オペラ座の音楽監督を務め、ナチ時代の作曲家に光を当てたデッカの退廃音楽シリーズでも高い評価を得た。シュトゥットガルト歌劇場時代には、リング4作それぞれに違う演出家を起用して話題を呼ぶ。これらが成功したのは、有能な指揮者あってこそだ。
 そんなツァグロゼクが10年ぶりに来日、読響と初顔合わせする。3月10日と12日は、ブラームスの「悲劇的序曲」、「交響曲第1番」に挟まれる形で、R.シュトラウス「メタモルフォーゼン」が演奏される。第二次大戦末期、破壊された故郷を前に書かれたこの曲は、哀切の思いに満ちている。プログラム前半で悲劇が深まり、後半に昇華されるという筋書きか。
 3月17日の定期は、ジョージ・ベンジャミンの「ダンス・フィギュアズ」日本初演で幕を開ける。ベルギー・モネ劇場などの委嘱で書かれたダンス音楽で、後に15分ほどの管弦楽ヴァージョンに編みなおされた。緻密なオーケストレーション、多彩なリズムが魅力だ。続いてコダーイ「ハーリ・ヤーノシュ組曲」、さらにベートーヴェン「英雄」。ほら話が大好きな老いぼれ農夫ハーリ・ヤーノシュは、第4曲でナポレオンを捕虜にしてやったと自慢する。ベートーヴェンが「英雄」をナポレオンに捧げようとした逸話は、あまりにも有名だ。アイディアの光るプログラミングではないか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年3月号から)

第590回 サントリーホール名曲シリーズ 3/10(木)19:00 サントリーホール
第86回 みなとみらいホリデー名曲シリーズ 3/12(土)14:00 横浜みなとみらいホール
第556回 定期演奏会 3/17(木)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
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