作品の精神世界を存分に描き出す
エリソ・ヴィルサラーゼのピアノは、彼女が70代を迎えた今もなお、力強い輝きと生気を放っている。トビリシの音楽家一族に生まれ、ロシアの名だたる巨匠たちと直接交流した最後の世代のひとり。ロシアン・ピア二ズムの継承者として後進の指導にあたるほか、今もヨーロッパを中心に盛んな演奏活動を行う。
2014年には来日し、サンクトペテルブルク・フィルとの共演に加え、日本で11年ぶりとなるリサイタルを行った。彼女はどんな人生を歩んできた人なのだろうか、どんな経験がこの確信に満ちた音楽をもたらしたのだろうかと思わずにいられない、人間味と圧倒的な存在感のある音楽を聴かせてくれた。
今回演奏するのは、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマン。モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」と第13番は子供のころくり返し弾いた作品だという。年を重ねた今、そのシンプルな美しい世界を、変幻自在の軽やかな表現力を駆使してどのように構築するのか楽しみだ。また、ベートーヴェンからは、彼女のしなやかな鋼のような音がよく似合いそうな「熱情」ソナタを取り上げる。そして、最後に用意されているのが、シューマンの「謝肉祭」。長きにわたり探究を続けてきた作曲家との親密なつながりが、作品の精神世界を存分に描き出してくれるだろう。
ヴィルサラーゼの幅広い表現力が存分に味わえる、多彩なプログラム。作品への深い愛情と、確信に満ちた円熟のピアニズムを味わう一夜となりそうだ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)
11/21(土)19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
http://www.triphony.com