⼭澤慧(チェロ)と熊倉優(指揮)が第24回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞

 2月13日、第24回(2025年度)齋藤秀雄メモリアル基金賞の受賞者が⼭澤慧(チェロ部門)・熊倉優(指揮部門)に決定したことが発表された。同日、都内で行われた贈賞式には、受賞者2名のほか選考委員の堤剛(チェリスト)、高関健(指揮者)らが出席した。

左:熊倉優 右:⼭澤慧

 本賞は2002年、財団法人ソニー音楽芸術振興会(現・公益財団法人ソニー音楽財団)によって創設された。チェリスト・指揮者・教育者の故・齋藤秀雄にちなみ、音楽芸術文化の発展に貢献し、今後さらなる活躍が期待される若手のチェリストと指揮者を各1人顕彰する(永世名誉顧問:小澤征爾)。

 現在、藝大フィルハーモニア管弦楽団の首席および千葉交響楽団の契約首席を務める山澤。2010年代前半に多くのコンクールで入賞を果たす中、第11回現代音楽演奏コンクール“競楽XI”(2014年)での優勝が一つのきっかけとなり、近現代作品の演奏に注力し始める。17年のフランクフルト留学では現代音楽アンサンブル「アンサンブル・モデルン」のミヒャエル・カスパーのもとで研鑽を積んだ。以後、とりわけ20世紀以降に書かれたチェロ作品の演奏およびレパートリーの拡充で高い評価を確立している。

 贈賞にあたり堤は、「⼭澤さんの活動は、チェロの可能性を切り拓いた20世紀後半のチェリスト、ジークフリート・パルムを思い起こさせます。日本チェロ界のレベルはいまや世界的だと言われていますが、真の意味で充実した音楽文化を実現するためには、活発な創作活動が一体となっている必要があると思っています。山澤さんは現代音楽はもちろん古典的なレパートリーもカバーし、アンサンブル奏者としても素晴らしい。まさしく“全人的”なチェリストだと言えます」とその功績をたたえた。

堤剛

 ⼭澤は楯・目録を受け取ったのち、今回の受賞にいたるまでの歩みを次のように振り返った。

「自身がライフワークとしている20世紀以降の作品はしばしば変わったテクニックを求められるので、『山澤というのは器用な人間なんだ』とみられることも多いのですが、実際はむしろ不器用な人間だと思っています。東京藝術大学時代は、技術的になかなかできないことがあったりして、将来のことも含めて思い悩んでいました。そうした中で、大学院では齋藤先生の愛弟子である山崎伸子先生に師事し、音楽的にも人間的にも多くのことを学びました。
 私も教える側になり、若い音楽家と共に演奏する中で、自身もいろいろなものを与えられて、日々少しずつ成長しているように感じています。それもすべて、学生生活を通して様々な先生方が、“自分で悩み、トライして考える”力を育んでくださったからだと思います」

 熊倉は1992年生まれ。2016年から19年まで、当時NHK交響楽団の首席指揮者だったパーヴォ・ヤルヴィおよび同楽団のアシスタントを務め、その間に第18回東京国際音楽コンクール<指揮>(2018年)で第3位を受賞。コロナ禍での休止後、N響にとって初の演奏活動となった「希望のコンサート」(放送)を指揮するなど注目を集めた。21年からはドイツに拠点を置き、ハンブルク州立歌劇場でのケント・ナガノのアシスタントを経て現在はハノーファー州立歌劇場の第2カペルマイスターを務めており、25/26シーズンでは2つのプレミエを含め数多くの公演を指揮する。

 選考委員陣を代表し、高関は「オペラ指揮者はただ楽譜を追いかけていればいいのではなく、テキストの内容を把握したり、歌い手をはじめ様々なスタッフの方々とやり取りをしながら作品を作り上げていく、なかなか複雑な商売だと思います。ドイツの社会で生活をしながら演奏活動を行うというのは一筋縄でいくものではないですが、熊倉さんは全く恐れることなく見事に一流歌劇場で重責を務めている、これはすごいことです。皆さまも彼が日本で演奏する機会があったらぜひ追っかけてください。必ず素晴らしい指揮者になります」と惜しみない賛辞を贈った。

高関健

 一方熊倉は、自身の中における「齋藤メソッド」の存在感について以下のように語った。

「ほかの多くの若手指揮者と同様、私が初めて齋藤先生のお名前を知ったのは『指揮法教程』でした。私は桐朋学園大学に入ったときから指揮を学び始めたのですが、この本の体系化された教えに感動したのを覚えています。ただ同時に、それを自分の中に落とし込んでアウトプットする過程ではなかなか苦労をしました。最初にオーケストラの前に立った時には様々な困難に直面したのですが、そうした指揮者を目指すことの厳しさもこの本がすでに伝えてくれていたと思います。
 その後、NHK交響楽団のアシスタントとして初めてプロの現場に入り、そして実際に指揮台にあがるようになりました。最初の数年は本当に精一杯でしたが、振り返ってみると『指揮法教程』で学んだことは常に頭の片隅にあり、自分を助けてくれました。そしてこれからも、齋藤先生の言葉と共に歩んでいくのだと思っています」

 式の最後には、⼭澤がドメニコ・ガブリエリ作曲、最古の無伴奏チェロ作品の一つともいわれる「無伴奏チェロのためのリチェルカーレ」第1番・第5番を披露。元来、“探求する”という意味を持つ「リチェルカーレ」2曲を、これまでの軌跡をたどるように綴った演奏に、会場からは惜しみない拍手が贈られた。

写真・文:編集部


齋藤秀雄メモリアル基金賞
https://www.smf.or.jp/saitohideo/