ピーター・ゼルキン(ピアノ)

時空を超えた音楽との対話

 父にルドルフ・ゼルキン、祖父にアドルフ・ブッシュを持つ文字通りのサラブレッド、ピーター・ゼルキン。現代音楽の最前線を走る異端児という一昔前のイメージは、伝統や血統の重さを振りきる身振りが生んだもののようにも見えた。星霜を経て、ピーターはいま、異なる時代の異なる様式を自在に飛び越え、自由に呼吸し、音楽との対話を謳歌している。
 今回のリサイタルも聴衆を壮大な時間旅行へと誘ってくれる。まずはピーターが緊密にコラボを続ける作曲家チャールズ・ウォリネンが、ジョスカンをテーマにして書いた作品で幕を開ける。中世と現代がいきなり交錯するというわけだ。スウェーリンク、ブル、ダウランド、バードといったルネサンス期の大作曲家たちに続くのは、ベートーヴェン「ソナタ第30番」、モーツァルト「ソナタ第8番」、バッハ「イタリア協奏曲」といった“大山脈”。しかしよく見ると、その合間に20世紀の作曲家マックス・レーガーの小品「私の日記より」(抜粋)が置かれているではないか。意表を突く選曲の効果のほど、会場で確かめよう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)

10/5(月)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
http://www.toppanhall.com