
「想像していたのと違う!」——きりく・ハンドベルアンサンブルのコンサートにはじめて来た人は皆そう口にするという。2004年のデビュー公演以来、ハンドベル界のトップ・アンサンブルとして世界の第一線を走り続けてきた「きりく」。年末恒例の浜離宮朝日ホールでのコンサートについて、芸術監督の大坪泰子に話を聞いた。
「ハンドベルというとクリスマスのイメージがあるかもしれませんが、実は“クリスマスコンサート”とは謳ってないんです。以前はクラシックと宗教曲しかない硬派なプログラムでしたが、今はジャンルにこだわらず、やりたい曲をやっています。有名な〈ホワイトクリスマス〉も演奏しますが、街で流れているような消費される音楽にはしたくなくて。きりくのオリジナルアレンジで、ややクラシカルに仕上がっています」
7オクターヴにもおよぶ音域のベルをずらりと並べ、6〜9人のメンバーが目にも止まらぬ速さで持ち替えながら演奏する姿には目を引かれる。だが、演奏以前に大変なのが編曲作業だ。
「ひとつのベルでひとつの音しか出せないので、まずは原曲をハンドベル用に編曲します。その楽譜にある音を、それぞれのベルとそれを演奏するメンバーに振り分けていく作業はパズルのよう。実際に並べて演奏してみたらうまくいかない場合もあるので、本番の直前まで入れ替えては書き直しての繰り返しです」
今回のプログラムでも、オルガン、ジャズ、ケルト音楽など、さまざまな出自の音楽を、ハンドベルならではの響きで味わえる。
「私たちはひたすら“その曲らしさ”とハンドベルという楽器の演奏効果を追求しているので、結果的にそこに個性がにじみ出ることはあっても、“きりくらしさ”を出そうと思ってやっているわけではありません。たとえば、オルガンは同じ音を手と足の鍵盤で同時に鳴らすことがありますよね。それをベルで表現するときは、1セットしかなければピアノのように一音で兼ねるしかありませんけれども、厳密には複数のベルで鳴らし分けなければなりませんから、その分のベルも手も必要になります。そうやって地味で手間がかかることを、あえてやっているのです」
身体全体を使ってベルを響かせるには、技術と音色へのセンスが大切だという。
「低音のベルは4〜5kgの重さがあるので、筋力もある程度は必要ですが、筋肉が全然ない私の音がいちばんよく聞こえるということも。やっぱり音色には、その人の感性が出るんですよね。一人ひとり違う。ヴァイオリンやピアノといった楽器と変わりません」
生で聴いてこその発見があるハンドベルの響きに、ぜひ触れてみてほしい。
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2025年11月号より)
きりく・ハンドベルアンサンブル 2025
2025.12/20(土)14:00 浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://www.millionconcert.co.jp

