三人三様、味わい異なるホフマンとヒロインたち
実力派のダンサー陣を擁し、躍進を続ける新国立劇場バレエ団は、新制作『ホフマン物語』で新シーズンの幕を開ける。実験的、先進的な作品を次々と生み出した、英国バレエ史上重要な振付家ピーター・ダレルの代表作だ。新国立劇場を率いる大原永子は、ダレルのもとで彼の作品のヒロインたちを踊り、身をもってそのスタイルを熟知している。その大原が、ドラマと多彩なダンススタイルを味わえる、今の新国立劇場に相応しいものとして選んだ作品だ。
ドイツの作家E.T.A.ホフマンのいくつかの小説をもとに脚色したオッフェンバックのオペラ(1881年初演)同様、老詩人ホフマンが若い学生たちに乞われ過去を語る形式で、成就しなかった過去の3つの恋物語が3幕構成(プロローグ、エピローグ付き)で描かれる。タイトルロールのホフマン役は、若く傲慢な20代の若者から、悲劇的な恋を重ねた末の老年期までを演じる。演技力、解釈力、表現力が問われる難役には、カンパニーを牽引するプリンシパル、福岡雄大と菅野英男、そして急成長中のソリスト井澤駿が配された。多様な振付家作品を踊ってきた二人のプリンシパルは、それぞれに味わいの異なるホフマン像を描き出していくだろう。若い井澤の体当たりの演技も楽しみだ。マイレン・トレウバエフと貝川鐵夫が演じる、ホフマンに影のように付きまとう悪魔的な男の存在にも注目だ。
各幕ごとに変わるヒロインは、機械仕掛けの人形オランピア、病弱ながらプリマ・バレリーナを志望するアントニア、高級娼婦のジュリエッタ、と三者三様。各幕ごとにダンスのスタイルも変わる。視覚的要素の変化も魅力だ。
第1幕は、バレエ『コッペリア』同様、ホフマンの『砂男』が出典。人形と少女、その境界線を行き来するオランピアを演じるのは、切れ味鋭い動きの長田佳世と音楽と戯れるような踊りの奥田花純だ。
オペラでは歌手志望のアントニアだが、バレエではプリマを夢見る少女に改変されており、彼女の幻想という形をとって展開する大バレエシーンは第2幕の見どころだ。小野絢子と米沢唯、身体性、個性の違いが際立つ二人が、現実と理想の中で引き裂かれていく悲劇的なヒロインを演じる。
最も退廃的で魔的な幕が第3幕。俗世間を捨てたホフマンを誘惑し、彼を徹底的に破滅させようとするジュリエッタには、表現力と存在感がより一層増してきた本島美和、そして米沢、作品への解釈力にも優れた二人が配されている。
今回新制作にあたり装置・衣装を新たにデザイン、劇場のスケールに相応しい作品として新たな生命を吹き込まれる新国立劇場版『ホフマン物語』。人間の弱さや人生のどうしようもなさと向き合い、創作活動を続けたダレル、彼の遺した作品は時代を超えて私たちの心に何を語りかけてくるのだろう。
文:守山実花
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)
10/30(金)〜11/3(火・祝) 新国立劇場 オペラパレス
7/18(土)発売
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet