東芝グランドコンサート35周年特別企画 ダニエル・バレンボイム(指揮/ピアノ) シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)

ブルックナー・ツィクルスで示す帝王の証し

ダニエル・バレンボイム ©Holger Kettner
ダニエル・バレンボイム ©Holger Kettner

 タフさは、スター音楽家の絶対要件だ。オーケストラや長大なオペラの指揮に加え、ピアノ・リサイタルや弾き振りまでやってのけるダニエル・バレンボイムの活躍の場は、欧州を中心にアメリカやアジアにまで広がる。スケジュールに追われてさぞお疲れかと思いきや、太い腕の下から立ち上がる音楽は、いつもずっしりと重くパワフルだ。グローバル・プレイヤーとは、きっとヒグマのような体力の持ち主なのだ。
 そのバレンボイムが1992年より音楽監督として君臨するシュターツカペレ・ベルリン(SKB)とともに、来春早々驚くべきプロジェクトを行う。ブルックナー交響曲連続演奏会だ。名門オーケストラではこうした企画は珍しくないが、なんといってもブルックナーは曲が長いし、演奏も筋を通さなければリスナーが納得しないので、何人かの指揮者で分担して連続公演、というわけにもいかない。一人ならば何年かがかりのチャレンジになるのが普通だ。それを彼らは2週間にも満たない短期間に実現してしまおうというのである。しかもこれは本拠地ベルリンの話ではない。来日公演という、ある意味過酷な環境下で敢行するのだ。ベートーヴェンやブラームスならともかく、ブルックナー・ツィクルスとは、何から何までケタはずれだ。だが、彼らはこのマラソン・コンサートをすでにウィーンで実現し、高い評価を得ており、準備も万端だ。
 そもそもバレンボイムにとってのブルックナーは、キャリアの初期から登頂を繰り返してきた巨大山脈のようなもので、その登攀の記録はCD化もされている。まずは1970年代初頭からほぼ10年をかけたシカゴ響との全曲録音。荒削りなところもあるにせよ、肉厚のサウンドで濃厚な味わいを聴かせる。90年代にはベルリン・フィルとの全集があり、濃厚さはそのままに、オーケストラの機能美や経験を通じて培われた洗練が加わった。SKBとの近年のブルックナーもすでに多くがCD化、発売されている。年月をかけて練り込まれた得意曲を長年の伴侶と共にという、最高の条件での日本上陸というわけなのだ。
 モダン・オーケストラでも古楽演奏に源流を持つコンパクトで軽やかな演奏が主流となっているが、このコンビは重厚な低音を土台に、がっちりとした構造を打ち立てていく。一見地味だがずっしりと迫ってくる、いかにもドイツらしい音楽を鳴らす。同じ都市を本拠地とするベルリン・フィルが機能美を生かした一種のコスモポリタニズムだとすると、バレンボイム&SKBは保守本流の矜持を示す存在と言える。
 さらに驚くべきことに、9曲(第0番・第00番は含まず)の交響曲に加え、第5番、第7番、第8番の上演日を除きプログラムの前半にはバレンボイムがモーツァルトの第20番以降の後期ピアノ協奏曲の弾き振りも行うという。この帝王のタフさぶりには、驚き呆れ、畏れ入るよりない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)

サントリーホールでのブルックナー・ツィクルス
2016.2/9(火)〜2/11(木・祝)、2/13(土)〜2/16(火)、2/19(金)、2/20(土)
川崎公演(交響曲第8番) 2016.2/18(木) ミューザ川崎シンフォニーホール
東京&川崎公演:7/18(土)発売

公演期間:2016.1/31(日)〜2/25(木)
仙台、大阪、名古屋、東京、川崎、金沢、広島、福岡
※2/23,2/24,2/25公演 指揮:ダーヴィト・アフカム
※発売日を含む各公演の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://www.t-gc.jp