無伴奏ヴァイオリンの聖典とも言えるバッハのソナタ全3曲がリリースされた。予想にたがわず周防らしい美意識に貫かれた演奏だ。できるだけレガートを効かせて流麗に仕上げる。ゆったりとした冒頭楽章はもちろんのこと、フーガのような声部の絡み合いも重音のアタックから生じるエッジをできるだけ除き、しっとりと組み上げた。全体にヴィブラートもごく薄めで、第3楽章にあたる歌謡楽章では柔らかく刻むリズムに乗って旋律が敬虔な祈りのごとき表情を帯びる。美しく共鳴しあうハーモニーに、ほどよく残る残響がほんのりと上気したような衣を纏わせる。不思議な魅力を湛えた演奏だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2025年11月号より)
【information】
SACD『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(全曲)/周防亮介』
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番
周防亮介(ヴァイオリン)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00892 ¥3850(税込)



