アンドレア・バッティストーニが待望の東京フィル定期で描く自然絵巻

アンドレア・バッティストーニ ©上野隆文

 東京フィルの9月定期は、首席指揮者アンドレア・バッティストーニが登場する。怪我があって春の来日が叶わず、昨年11月以来の共演となるため、通常以上の期待を集める舞台となりそうだ。プログラムは自然をテーマとする、20世紀前半のオーケストラ作品2曲。

 注目したいのは、ピツェッティの「夏の協奏曲」。20世紀イタリア作曲家の紹介に熱心なマエストロならではの選曲で、演奏機会の稀少なピツェッティ作品を実演で聴ける貴重なチャンスとなる。ロマン派の作風を引き継いだ、巧みなオーケストレーションを誇る実力者で、1940年には日本政府の委嘱で「皇紀2600年奉祝曲」として「交響曲」を書いたことも知られる。しかも1928年作の「夏の協奏曲」は、日本初演が東京フィルという縁もあるという。3楽章構成でイタリアの風景と夏の空気感が、壮麗な響きのなかから爽やかに伝わる、匠の技が光る佳品だ。

 さらに話題となりそうなのが、R.シュトラウス「アルプス交響曲」。特殊楽器も多い大管弦楽を駆使して、アルプス登山の日の出から日没までを描く大作。かつ自然描写でありながら、人間の生涯にも重なる懐の深い内容をもち、豊かな旋律美や精緻な色彩美にもあふれた人気作である。大編成の華やかな楽曲で名演を実現してきたバッティストーニの「アルペン」となれば、期待は膨らむばかり。まだまだ猛暑が残っているであろう9月の半ば、美しくも迫力満点の“夏と自然”の光景を、ホールでたっぷり味わうのも一興だろう。

文:林 昌英

(ぶらあぼ2025年8月号より)

アンドレア・バッティストーニ(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
第1022回 サントリー定期シリーズ 

2025.9/11(木)19:00 サントリーホール
第173回 東京オペラシティ定期シリーズ
9/12(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第1023回 オーチャード定期演奏会
9/14(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
https://www.tpo.or.jp


林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。