
快進撃が続くカウンターテナーの藤木大地が、8月末に浜離宮朝日ホールでアフタヌーンコンサートを開催する。今年1月に同ホールで開いたリサイタルとはガラッと違うプログラムだ。
「浜離宮はもう“帰って来た”と言える場所になっています。歌のリサイタルに理想的なキャパと音響ですし、ホールの方と話す中で関係も深まり、僕のリサイタルのための委嘱作品として木下牧子さん、加藤昌則さん作曲の歌曲もこのホールで生まれました。今回はその中から、1月に初演した加藤さん作曲〈風のうた〉をもう一度とりあげてオープニングに歌います」
前回のリサイタルは自身の音楽人生の軌跡をたどる選曲だった。今回はベルリオーズとヴォーン・ウィリアムズの歌曲集に加えて、テノールの宮里直樹をゲストに迎えてのブリテン「カンティクル第2番〈アブラハムとイサク〉」、という実に意欲的な内容になる。
「プログラムを組み立てる時には、共演の楽器を何にするのか、というところから話が始まります。今回はゲストに歌手を迎えたいと思いました。ちょっと渋いことをやろうと思ったので、歌曲集を二つ、8月だからベルリオーズの『夏の夜』をまず決めて、ヴォーン・ウィリアムズの『旅の歌』もしばらく歌っていなかったのでそれもとりあげようと。だとするともう一つ英国の曲が必要だと思い、ブリテンの『カンティクル第2番〈アブラハムとイサク〉』にしました。この曲を宮里さんと歌います。実は彼とは2012年くらいからの知り合い。ウィーンでも一時期、同じ家を借りていたことがあるんです。その彼と去年、札響の『第九』で共演したのですが、その日、彼がフィンジの『武器よさらば』を歌い、これならブリテンもきっといい!と思って。僕はもともとテノールだったからテノールには厳しいので(笑)。大好きな曲ですがなかなか披露する機会がなかったので楽しみです」
ベルリオーズの歌曲はいかにもこの作曲家らしい音楽。
「拍子感やリズムも掴みどころがなく、覚えにくい音楽なんです。でも、あの時代にしてはすごくミステリアスで、色っぽい感じがする曲。将来、オーケストラ版でも歌ってみたいと思っています」
ヴォーン・ウィリアムズは藤木が特に愛する作曲家だ。
「ブリテンもヴォーン・ウィリアムズも、クィルターもそうですが、英国の歌には日本人のノスタルジアを呼び覚ますメロディがあると思っていて。歌の旋法に郷愁を感じて好きなんです」
ピアノは長年コンビを組んでいる松本和将。藤木とは東京藝大の同級生であり、普段はコンサート・ピアニストとして活躍している。
「彼は僕との共演に関して言ったら、ものすごくよく聴いてくれますね。アンテナが高いんです。ピアノは別格に上手いですし。僕は演奏会のピアノは伴奏ではなく、やはりデュオだと考えているので、そう思えるピアニストにお願いすることがほとんどです。彼は確固とした自分の音楽があるし、共演者と一緒にやろうという気持ちと能力があるので、一緒に作り上げていけます」
オペラやリサイタルの合間を縫って録音した新しいアルバムも間もなく発表される予定だ。常に全力投球の藤木大地の「今」を感じられるステージになるだろう。
取材・文:井内美香
(ぶらあぼ2025年8月号より)
浜離宮アフタヌーンコンサート
藤木大地 カウンターテナー・リサイタル Encounter-tenor 2025 Summer
2025.8/29(金)13:30 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/


