
Photo: Pablo Castagnola ©The Japan Art Association
7月15日、第36回「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催:公益財団法人日本美術協会)の記者会見が都内で行われ、5部門の受賞者が発表された。音楽部門の受賞者にはピアニストのアンドラーシュ・シフが選ばれた。
高松宮殿下記念世界文化賞は、日本美術協会の設立100年を記念して1988年に創設。前総裁・高松宮殿下の「世界の文化芸術の普及向上に広く寄与したい」という遺志にもとづき、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の各分野で世界的に顕著な業績をあげた芸術家に毎年授与される。
第36回の受賞者は次の通り。
第36回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
◎絵画部門:ピーター・ドイグ(イギリス)
◎彫刻部門:マリーナ・アブラモヴィッチ(セルビア)
◎建築部門:エドゥアルド・ソウト・デ・モウラ(ポルトガル)
◎音楽部門:アンドラーシュ・シフ(イギリス)
◎演劇・映像部門:アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル(ベルギー)
現代を代表するピアニストの一人、アンドラーシュ・シフは1953年、ブダペスト生まれの71歳。“ハンガリーの三羽烏”の一人として人気を博した若き頃から、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンなど独墺のレパートリーを軸とし、バルトークやヤナーチェクでも高い評価を受けてきた。一方で、ショパンやリスト、ロシアものなどをほとんど演奏しないのもシフの大きな特徴のひとつ。近年は、トークを交えながら、ステージの上でプログラムを発表するカルト・ブランシュのスタイルによるリサイタルも多い。磨き抜かれたタッチから生み出される音色の美しさ、楽曲への深い理解に裏打ちされた知性とユーモアが共存する温かみのある音楽は、多くの聴衆を魅了している。
1999年には信頼する仲間たちと室内オーケストラ「カペラ・アンドレア・バルカ」を結成。ピアノ協奏曲での弾き振りはもちろん、シューベルトやモーツァルトの交響曲からバッハ「マタイ受難曲」に至るまで、指揮者としてもその視野の広さを示してきた。昨年、この「カペラ」が2026年に活動終了することを発表し、今年3月には日本を含む最後のアジアツアーが行われた。盟友ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)や私生活のパートナーでもある塩川悠子(ヴァイオリン)らとの室内楽も長年にわたり続けており、この分野でも多くの録音を残している。
後進の育成にも力を注いでおり、クロンベルク・アカデミーやバレンボイム・サイード・アカデミーなどでピアノと室内楽を指導。世界各地でマスタークラスを行い、2014年には若手ピアニストの支援プログラム「ビルディング・ブリッジズ」を創設した。
音楽部門選考委員長でチェリストの堤剛は、シフが「私たち音楽家から非常に尊敬されている存在である」ことを強調した。
「彼の演奏から感じるのは“音楽への真摯な態度”です。作品に対する敬意、作曲家に対する深い理解と尊敬、それらすべてがはっきりと感じられます。自分を前面に押し出すタイプのピアニストではなく、地道に、粘り強く、作品と向き合ってこられた。そういった努力の積み重ねが、今日の彼をつくっているのだと思います。
音楽は人と人とのコミュニケーションであり、感性を通じた対話でもあります。演奏は決して派手ではありませんが、そうした関係性を大切にする彼自身の人間性が(演奏に)表れていると思います」

演劇・映像部門を受賞したアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルは、ベルギー・メヘレン出身の振付家・ダンサー。自身が主宰するカンパニー「ローザス」の芸術監督として、1980年代以降のコンテンポラリー・ダンス界を牽引、とりわけミニマル・ミュージックの先駆者スティーヴ・ライヒの音楽と連動する振付で大きな注目を集めた。オペラやミュージカル作品の演出も手掛けており、2004年は細川俊夫のオペラ《班女》を演出。また、1995年にはブリュッセルに舞台芸術学校「P.A.R.T.S(Performing Arts Research Training Studios)」を設立するなど、次世代のアーティスト育成にも尽力している。
また、同時に発表される第28回 若手芸術家奨励制度の対象団体には、ロンドンを拠点に次世代の俳優育成にも取り組む劇団「ナショナル・ユース・シアター」が選ばれた。
5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が、若手芸術家奨励制度では奨励金500万円が贈られる。10月には受賞者たちの記者会見が都内で予定されており、シフがそこで何を語るのかも楽しみに待ちたい。
文・写真:編集部

高松宮殿下記念世界文化賞
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