【CD】鈴木愛美 ピアノ・リサイタル

 第12回浜松国際ピアノコンクールで優勝した鈴木愛美のデビュー録音。4曲はいずれもコンクールで弾いた作品だが、曲目に目を奪われる。J.S.バッハの「平均律」、シマノフスキ「メトープ」、ハイドンの初期ソナタにシューベルトの「幻想」ソナタ。知名度よりも、確信を持って臨める曲を録音する信念の証だ。演奏はそれを裏付ける。各声部がよく語り歌うバッハ、精密なアナリーゼで曲に生命を吹き込むシマノフスキ。即興的装飾も交えたギャラントなハイドンに、内面へと沈潜しつつ若々しい推進力もあるシューベルト。4曲の性格が描き分けられつつ、まぎれもない奏者自身の「声」が一貫して響いている。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年8月号より)

【information】
CD『鈴木愛美 ピアノ・リサイタル』

J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻 前奏曲とフーガ第22番/シマノフスキ:メトープ/ハイドン:ピアノ・ソナタ第13番/シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番

鈴木愛美(ピアノ)

ORCHID CLASSICS/ナクソス・ジャパン
NYCX-10543 ¥3000(税込)


矢澤孝樹 Takaki Yazawa

1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。