モーツァルトの協奏曲を仲道郁代と井上道義の共演で聴ける待望のアルバムであるが、昨年の井上の引退により、タイトルどおり「ラスト」となった録音。引退コンサート直前の2024年12月に第一生命ホールで収録された第20番と第23番である。この録音のために結成された「アンサンブル・アミデオ」(コンサートマスター:長原幸太)とともに、井上は精緻でエレガントな響きを織り成す。各楽器セクションの表現は明瞭で、室内楽的なきめ細かさが美しい。仲道は一音一音(一瞬一瞬)を慈しむように奏でる。その丁寧な音運びからは、音楽と人生への深い愛情が感じられる。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2025年7月号より)
【information】
SACD『ザ・ラスト・モーツァルト/仲道郁代&井上道義&アンサンブル・アミデオ』
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、同第23番
仲道郁代(ピアノ)
井上道義(指揮)
アンサンブル・アミデオ
ソニーミュージック
SICC 19086 ¥3630(税込)

飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)
音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。