
日本のオペラ界を代表するプリモ・テノールとして大人気の西村悟が、リートのコンサートを行う。取り上げるのはシューマン「詩人の恋」。コロナ禍に歌い手として様々な困難に直面する中、改めて向き合った作品だという。近年西村は、仲道郁代とのコンビで「詩人の恋」や「美しき水車小屋の娘」を歌って高い評価を得ている。いわば、リートの世界にも活動の幅を広げつつあるわけだが、そんな西村が、今回は単に歌うだけでなくオペラのようにドラマを描き出す公演にしたいと考えたそうだ。公演タイトルも「オペラティックリート」と名付けられている。
そのために、日本のオペラ演出における第一人者である岩田達宗を招き、リートでありながら演出を施す。岩田は、東京文化会館でバリトンの小森輝彦とともにドイツリートをオペラとして上演する企画を重ねているが、その経験とアイディアが今回も大いに活かされると思われる。オペラの演奏に関しては右に出る者のいない河原忠之のピアノも、この企画にはうってつけ。岩田は「ナマの肉体で歌う歌手が、一台のピアノでその奇跡を起こすリートの演奏こそ、最も純粋な演劇であろう」と語る。オペラとリート、両方のジャンルで活躍を重ねる西村悟だからこそ拓ける、新しいドラマの世界が描かれることになるだろう。また、当日はダンサーの細田琴音も出演予定。歌・ピアノ・ダンスとドラマが一体となった、ある種の「総合芸術」作品になるにちがいない。
文:室田尚子
(ぶらあぼ2025年5月号より)
〈オペラティックリート Vol.1〉 西村 悟 × 河原忠之 × 岩田達宗
シューマン 詩人の恋(舞台版)(原語上演・字幕付き)
2025.5/9(金)19:00 東京文化会館(小)
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp